『これ、あなたでしょ？』
見知らぬアドレス、件名のないメールを開くと、たった一言そう書いてあり、
ＵＲＬが貼られていた。

結婚して９年目、３６歳の絵美が出会い系サイトにはまったのは
３年前、育児の疲れとストレスを発散するのがきっかけだった。

色々な出会い系サイトへの登録のため作ったフリーアドレス。
一日に何通もメールが届く。こんな簡潔なメールは初めてだった。

絵美はスマートフォンを片手で器用に扱いながら、さきほど買った
コーヒーに口をつけた。平日日中のコーヒー店には多くの人がいたが
絵美はフロアの窓側片隅に座り、隣席には鞄を置いて自分の空間を作っていた。

日中といっても冬の寒さと冷え性である絵美の体は冷たく、温かいコーヒーが
身体に染み込む。脚を組んで座る絵美のスカートから網タイツを履いた脚が
綺麗に見える。

簡潔すぎて迷惑メールとは思えなかった。送信者のアドレスもフリーアドレス。
絵美はコーヒーを机に置くと、スマートフォンに映るメール、
ＵＲＬをタッチした。

ブラウザに表示されたサイトは、画像投稿掲示板だった。
タイトルに『中出し専用人妻』とある。
表示されたサイトをスクロールすると連続して淫らな姿の女性の
写真が、何枚も貼られている。
胸元までのパーマをかけ綺麗に染めた髪、全裸であったり、卑猥な下着を
着た女性がベットの上でバイブを入れている。
自分でバイブを入れる姿、ローターをあてながら男性の陰茎を
口に入れる姿、その陰茎を陰部に入れられている姿。

《これ、私じゃない・・・・》
絵美は写真や、その写真にレスされたコメントを読むと
驚きで、温かいコーヒーで暖まった身体が冷たく固まってしまった。

我に返る絵美。ここが大型コーヒー店、沢山人が居る事を思い出すと
サイトを閉じた。
と同時に《なぜ？、誰が載せたの？どうしよう》と戸惑った。

窓の外は明るく、コートやダウンを着た人たちが行き来する。
鞄を置いた隣席のその隣には初老の男性が座り、コーヒーと
新聞を楽しんでいる。

絵美の綺麗に化粧をした目元、その瞳は窓の外を
行き来きする人々の流れを追うのではなく、頭のなかの戸惑いで
目が動いている。

落ち着いてもう一度サイトを開いた。
投稿された写真、女性の顔にはモザイクが薄くかけられていたが
絵美はそれが自身であると確信した。

この卑猥な下着、このベッド、すべて思い出せる。
ただ相手の男性が頭にでてこない。

３年前絵美の子が幼稚園に入園し、日中少しの時間、自分の時間を
作れるようになった。夫は忙しく帰りも遅い。たったひとりで
育児をしている気分だった。

その孤独感が自分の時間が生まれたことでまた大きくなり
出会いサイトを閲覧することになる。

３年前、はじめて会った男性とは食事をしてみたかっただけだった。
だけれど男性はそれだけでは満足しない。
絵美は身体を許した。絵美の乾いた身体が見知らぬ男性の身体で
温められる。絵美はＳＥＸにはまっていた。

３０代、自分がこんな女になるなんて思ってもいなかった。
見知らぬ男性と卑猥いなアダルトショップに行き、いやらしいおもちゃを
買う。クリスマスや誕生日には卑猥でセクシーな下着を
プレゼントされ、それを着てＳＥＸを楽しんだ。

一人の男性ではない。一人の男性と出会えば、また誰か違う男性を
求めていた。

絵美は少し落ちつた口元に、またコーヒーカップを口付ける。

必死に思い出した。このホテル、この下着、このバイブ。
何人もの男性が頭に現れ、その一人一人とのＳｅｘを思い出した。

自分の身体は触らせず、ただひたすら絵美をせめる男。
変わった場所でＳＥＸをしたがる男。
フェラチオが好きで、絵美をフェラチオ好きにさせた男
かわいい年下の大学生
普段は優しいのにＳＥＸでは絵美を拘束し絵美のＭ趣向を
引き出した会社員。。。

３年間で会った沢山の男が絵美の頭に現れる。

《あの人かな・・・・》
絵美は窓の外、冬の町並みを眺めながら２年前の出会いを思い出した。

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