蒲団に身体を横たえ、目を閉じると、私の脳裏に浮かんでくるのはあの時の
事でした。この年になって、初めて愛される歓びを感じたあの瞬間の記憶
が、この身体の中に刻み込まれた事を知りました。
「ごめんなさい・・あなた・・」
そっと心の中で夫に謝らずにはいられません。
(私をしっかり捕まえていて・・)
呆れるほど身勝手な考えが、心の中で繰り返し、繰り返し夫に語りかけてい
ました。
(私を何処にも行かせないで・・捕まえていて・・お願い!)
背中合わせの夫に、心の中で何度も語りかけながら眠りにつきました。
翌日はいつも通りに仕事に出ました。彼のいない職場は、少しだけ私の心を
楽にしてくれました。
(そう・・これでいいの・・このまま・・忘れるのよ。)
自分に対してそう言い聞かせ、彼との別れを心に誓いました。
時が、やがて彼を忘れさせてくれるに違いない、そう考えました。
彼の姿が見えなければ・・忘れるのも早いはず、それを願うだけでした。
そう・・あの時は確かにそう思っていたのですが・・。