店は国道から一段上がった位置で，一階部分はガレ－ジ，その前が駐車スペ－スになっており，店の上が3ＬＤＫの住居スペ－スである。山の斜面に接しているので，上にいく程部屋は広い。これが退職金と貯金で手に入れた，私の唯一の財産である。
正直にいえば，今の生活を乱されたくはなかったが，この時間では宿などはとれそうにない。

素敵な所ね，お店も。・・・シャワ－使ったらいいよ，冷蔵庫にビ－ルがあるから。部屋はそっちが空いてる・・・ありがと。

風呂あがりの彼女は，女の匂いがした。
忘れていた何かが湧き起こるのを無視した。入れ代わりにシャワ－を浴びて，汗と共に感情を洗い流した。

ほてった体を冷たいビ－ルが心地よく沈めてくれる。

少し歳をとったけど，貴方は変わってないのね・・・お互い様だろ，それに今の俺はもう昔の俺じゃないんだぜ・・・そうね，そうだよね。

俺は出世には関心はなかったが，彼女は違った。男よりも仕事が面白く，出世することに余念がなかった。
バブルが弾けた後でもアパレル業界は怯むことを知らず，姿の見えない金を右から左に動かす彼女の実力は，大いに発揮できる独壇場だったはずだ・・・。
彼女がきてから三週間が経つ。
近所のバイク小僧達が毎日，店にやって来るのは夏休みのせいだけじゃなさそうだ。
ねぇマスタ～こんな綺麗な人，いつ雇ったんだよ！紹介してよ・・・バカたれっ，十年早いんだよ・・・んだよっ，ケチッ！・・・俺のＺIIに勝てたら教えてやる，負けたら今までのツケ，一括払いな・・・鬼っ！悪魔っ！・・・マスタ－と呼べ。
えっ？ユウジまだ乗ってたの？・・・んっ，まぁな・・・懐かしいわね。
なんでぇ～マスタ－の彼女なんじゃん，おかしいと思った，ねっねっ，いつから？・・・お前にゃ教えてやらん，知りたきゃツケを払うんだな・・・なんだよ～鬼っ！悪魔っ！ひとでなし！・・・マ～ス～タ～だっ！！。


やっと帰りやがった，コ－ヒ－だけでよくあんなに粘れるぜ・・・あら，貴方もまんざらじゃなさそうだったわよ？・・・フンッ，今日はもう店じまいだ，・・・いいの？・・・お前の知ったこっちゃない・・・そうね，ごめん・・・いや，そんなつもりで言ったんじゃない，今日は暇だからさ，ええ～と，ドライブ行くか？バイクだけど・・・私でいいの？・・・バカ，ほかに誰がいるんだ？