出会いは、いつものあのサイトだった
「歯科衛生士してます」──その一言と、マスク姿の写真だけで、何かが引っかかった
どことなくタヌキを思わせる可愛らしい顔
メガネの奥に潜む甘さの予感
待ち合わせは札幌・狸小路
アーケードの下、小雨が斜めに舞う早朝
彼女はランドローバーの助手席に滑り込んだ
軽く会釈
甘いベリー系の香水が鼻をくすぐる
「ロイズ、行ってみる?」と声をかけると、小さくうなずく
それだけで会話は終わり、車を北に向ける
あいの里のロイズでパンを買い、そのまま当てもなく北上を続けた
それは、パンを買って数分も経たないうちだった
シートベルトの音が外れ、彼女の身体が、すっとこちらに傾く
何も言わず、何も聞かず、ただ静かに膝の上に手を置いて──そのまま、そっと唇を当ててくる
とにかく上手い
そんな言葉で片付けてしまうのが惜しいほどの、静かで熱のある舌づかい
竿の根元から玉までをくまなく舐めわけ、温度を変え、湿度を変え、まるで診療室で繊細な処置をしているかのような集中力
軽く吸っては離し、深く飲み込んではゆっくりと戻る
こちらの反応を一切見ないまま、ただ自分の世界に没入していくようだった
車の外では霧雨が窓を打ち、車内は熱と湿気でくもっていく
彼女の頭が小さく上下し、頬にかかる髪がこちらの太ももにやわらかく触れるたび、ぞくりとした震えが背を這った
口の中で熱くなった自分が脈打つのがわかるたび、彼女はほんの少し、唇の締めつけを変えた
月形刑務所に車を停めたのは、もう我慢が効かなくなりそうだったからだ
人影はなく、雨が降っているせいで、まるで世界から取り残されたような静けさがあった
車の外に出ると、彼女はロングスカートを持ち上げながら並んで歩いた
塀のそばにある木の陰で、彼女がふいに立ち止まる
濡れた頬を拭う仕草に誘われるように唇を重ねると、彼女の舌はすぐに応えてきた
車の中と同じ、いや、それ以上にねっとりと、絡みつく
背後から彼女の腰に手を回し、押しつける
スカート越しに触れた尻は、想像以上に柔らかく、しなやかだった
私は堪らなく勃起していた
叶うのであれば、そのまま彼女の中に侵入したかった
そんな想いを込めて、怒り勃った肉棒を彼女のお尻に擦りつけた
彼女は何も言わず、ただ、ぐっと自分の尻をこちらに押し返してきた
その無言の応酬が、なによりも濃密だった
雨に濡れた髪、湿った唇、ふくらむ呼吸
まるで「何も語らずにすべてを伝える練習」を、彼女は日常にしているかのようだった
帰り道、石狩で一軒のホテルを見つけた
赤いネオンがぼんやり光り、窓の向こうに波の影が揺れていた
部屋に入ると、彼女は無言のまま服を脱ぎ、タオルだけを体に巻いてベッドに座る
何も求めず、何も強制せず、ただ、そこにいるだけなのに、欲情の火は静かに、だが確実に燃えていた
そして、彼女の舌は、また仕事を始めた
まるで愛撫を“治療”と呼べるなら、彼女は最高の医療者だった
今日何度めかの絶頂を迎えた私たちは、クールダウンのためシャワーを浴びた
タオルを肩にかけたまま、濡れた髪を絞る仕草
その姿は妙に無防備で、けれど艶があった
「こっち、来て」
彼女の優しい声が、タオル越しに空気を撫でた
そっと近づくと、彼女は胸元のタオルを少しだけずらし、指先でシーツをつまむ
吸い寄せられるように唇を重ねると、彼女の舌が、まるでずっと待っていたかのようにこちらの舌を迎えた
車内の静けさとはまるで別の生き物のように、熱く、ぬめり、吸い寄せてくる
ベッドに倒れると、彼女の身体がゆっくりと乗ってくる
柔らかい
けれど、芯がある
押し当ててくる腰の動きに、わずかに含まれるリズム
それは感情ではなく、意志に近いものだった
唇が首筋を這い、胸元を舌でなぞり、腹部で一瞬止まる
そして、例の“施術”が始まる
竿と玉と、その境界さえも見逃さないように、彼女は何度も往復する
浅く、深く、ゆっくり、時に急に吸い上げるような動きで
そこにあるのは、技巧というよりも執念だった
快感を与えることへの、異様なまでのこだわり
視線を合わせることはない
彼女はずっと、こちらの反応だけを感じ取りながら、どこまでも丁寧に、じっくりと、唇を使い続けた
一度、達してしまったあとも、彼女は離れなかった
喉奥に響くような熱い呼吸のまま、少し休んでは、またくわえる
まるで、もう一度最初から仕切り直すように
今回は、少し長かった
体は敏感になっていたのに、彼女の舌があまりに巧妙で、限界を測りながら焦らす
時折、わざと玉の裏側を吸い上げるように攻め、ぞくりと震えが走るたび、小さく唇を歪めて笑った気がした
最後は、彼女の唾液とこちらの熱が混ざり合って、もうどちらの呼吸かも分からないほどだった
そのまま、彼女は胸元に顔をうずめ、眠るように身を預けてきた
静かだった
彼女の髪の香りと、濡れた唇の余韻だけが、ずっとそこに残っていた
ベッドの上、静けさに包まれていた
彼女は仰向けになり、天井を見つめていた
まだ何も話していない
けれど、どこか満ち足りた空気が漂っていて、無理に言葉を探す必要もなかった
横に寝転ぶと、彼女がこちらをちらりと見て、ふと笑った
それは、それまでの無言の施術者の顔ではなく、年相応の、少し照れた女性の表情だった
「……疲れた?」
ぽつりと聞いてくる声は、湿った喉のせいか、ほんの少しかすれていた
「いや。……正直、すごかった」
そう返すと、彼女はタオルの端で顔を隠しながら、くすっと笑った
「よかった」
その一言の裏には、たぶんいろんな思いがあったんだと思う
ただうまくやったという満足だけじゃなくて、きっと、試していた部分もあるのだろう
黙って舐めて、感じて、それでも繋がれるかどうか
「また、会える?」
そう尋ねたとき、彼女は一瞬だけ目を伏せてから、ゆっくりとうなずいた
「うん。……でも次は、ちゃんと話してからにしよっか」
「話すって、何を?」
「たとえば、好きな食べ物とか。……仕事のこととか」
彼女が言葉を重ねるたび、彼女の中にある“ふつうの時間”が少しずつ垣間見えてくる
「それで舐めなくなるなら、話すのやめとくけど」
冗談めかしてそう言うと、彼女は笑って、シーツを引き寄せながら一言だけ、こう答えた
「話したあとでも舐めたくなる人って、たぶんすごく少ないから──だから、話してみたい」
その夜の帰り道、車内は静かだった
でも、助手席の彼女がふとつぶやいた一言が、今も耳に残っている
「また、舐めたい」
言葉の意味を聞き返すことはなかった
ただ、赤信号に照らされた彼女の横顔が、やけに穏やかに見えたのを覚えている