列車に揺られながら‥
本当に運命とはわからないものだと思わずにいられなかった。
淡々と雪原の中を走る列車の車内には自分の他に数組の乗客がいるだけだった。
牧方氏から教えられた駅に着いたのは札幌を出て優に2時間近くも経っていた。
駅前の店はどこもシャッターが下がりしんしんと降る雪の中に自分一人となり不安になっていた。
携帯で先ほどの牧方氏の自宅に掛けるも留守電になってしまい,益々不安になってくる。
本当に来てくれるのだろうか‥
もしこんな雪の中に置き去りにされたら‥凍死して‥
悪い方へ悪い方へと考えているうちに一台の四輪駆動車が街中を走ってきた。
立っている自分の横に止まると助手席のガラスが開き
「ごめんね。寒かったでしょ。」
夫人が声を掛けてくれたのでした。
「いや~悪かった。寒かっただろ‥荷物はコレだけで良いのかな?」
牧方氏が降りてきて後ろのトランクルームに荷物を入れてくれてから手を差し出した。
「遠いところを良く来てくれたね。」
握手をした時に小柄な体格と柔和な人当たりからは想像がつかないほどの大きな手のひらに驚いたのでした。
聞くと一時間以上も走った集落の外れに家がある様で辺りには何もないとの事だった。
「今日は遅いから,明日案内してあげよう。」
沢を渡り,見渡す限り何もない雪原を走り抜けて木立の中をしばらく走ると何軒かの家の明かりが木々の間から見えた。
「もうすぐだからな。」
ヘッドライトに照らされる道は雪が覆い,しっかりとした運転に感心するばかりだった。
そして木立が途切れた様に拓かれた中に大きな家があった。
まるで絵はがきに見る風景の様だった。
「さぁ,入ってくれ。」
北海道の家はどこでもそうだが室内に入るとムッと汗が出てくるほど暖房されている。
氏の家も例外なく2時間以上も無人だったはずだが断念性能が良いのか暑いほどに暖房された熱気が冷めていなかった。
「ゆっくりとしてね。」
夫人に案内されて2階の空き部屋へと荷物と呼べるボストンバッグを抱えて上がったのだった。
客間として造られた10帖ほどの部屋にベッドが二組置かれていた。
東京で住んでいたアパートよりもずっと贅沢な造りの部屋だった。
「疲れてるでしょうから,お風呂入ったらすぐ寝ると良いわ。お腹は空いてない?」
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