氏が亡くなって一月ほどした頃でした。
庭に積もっていた雪も消えて山にも緑が芽生え始めた日に夫人が言いました。
「圭一,お墓を作ってあげようと思うんだけど。」
「そうですね。」
夫人の提案で集落の人に製材した丸太を分けてもらい手を借りながら穴を掘り納められた氏の骨壺を埋めました。
「ずっと‥一緒にいられるわね。」
立てた墓標の丸太に向かい手を合わせると,集落の人々も集まってくれました。
「本当に良い人だった。」
口々にお悔やみの言葉をもらいました。
誰かからの提案で
「みんなで前みたいに鍋でもやらねぇか?」
「それが良い。社長もきっと喜んでくれるはずだな。」
「○○さんとこも声掛けてくっから。」
物置の中にしまってあった大きな鍋を出して氏を偲びながら集落の人々と思い出話しを語りながら鍋を囲んだのでした。
「圭一さんと奥さんは,ほれ‥そのどうなるんだ?」
「何,言い出すんだ。失礼だべ。」
村の人たちもやはり同じ事を考えているのだとその時気づきました。
「そうですね‥」
奥さんが返事に困っているのを見て
「自然に。そう思っています。奥さんも僕もこの家に一緒に住んでいくのが亡くなった牧方さんの意志でした。一緒に暮らしていく中で自然に‥そう考えています。牧方さんもそれを望んでくれている様に思います。」
「んだ。んだ。それが一番良い。社長もきっとそう言うだろう。」
「もしその時が来たら皆さんにはご相談させてもらいます。」
「いや~圭一さんはしっかりしてるな。牧方さんも安心してるべ。」
夕方になり,村の人たちが引き上げて行き,奥さんと二人になると
「圭一,お風呂に入ったら?」
と言われて入る事にしました。
「久しぶりに沸かしてみない?」
「そうですね。」
プロパンガスの給湯器もあるのですが薪をくべて沸かすお風呂が氏は好きでした。
火を点けながら水を張り薪をくべていると氏と過ごした日々を思い出しました。
「奥さん,ちょうど良い位ですよ。どうぞ。」
「圭一が先に入りなさい。私がけべるから。」
「そうですか。では。」
風呂の窓から奥さんが
「どう?ぬるくない?」
声をかけます。
「ちょうど良いです。大丈夫ですよ。」
窓の外ではパチッ‥パチッ‥と薪が弾ける音が響いていました。
きれいな月が窓から見えています。
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