たしかに,奥さまも自分も今まで弁護士や会計士と言った人とはまるで縁が無かったのです。
奥さまと顔を見合わせて頷きました。
「お願いします。」
「ありがとうございます。これは牧方さまからも頼まれていた事でもありました。お二方が紛争に巻き込まれない様,私どもがお手伝いさせていただきます。お話しは以上です。何かございますか?」
「いえ‥」
「近々,一度札幌の方にお越し願いたいのですが。調印とご資産のビルをご案内させていただきます。」
「わかりました。」
「では失礼致します。」
コートを取り,弁護士が出て行くと二人共考え込んでしまいました。
「会社の経営だなんて‥」
「驚きましたね‥」
「えぇ。」
二人でソファーに腰掛けたまま‥
「圭一は‥」
「何ですか?」
「一緒にいてくれる?」
「奥さんさえよろしければ。」
「でもいつかは‥」
「奥さんさえ嫌じゃなければずっと。」
以前,氏が話していた事がありました。
「人間の運命なんてわからないものだよ。いつ不慮の事故に逢い死んでしまうかも知れない。こうして圭一と話している瞬間が最期かも知れないのだから。もし私に万一の事があったら,圭一がどうしても嫌なら仕方ないけど,あれを貰ってやってくれないか。圭一にしてみれば一回り近くも離れたばあさんだが。」
そう笑って話していたのでした。
「あの人がね。変な事言ったのよ。もしも万一の時は圭一と‥って。おかしいわよね。」
「僕も同じ事を言われました。」
「何,考えてるのかしらね。一回り近くも離れてて‥有り得ないわよね。」
「奥さんは‥その‥嫌ですか?」
「だって圭一が‥」
「僕は全然。奥さんさえ‥」
「どうかしてるわね。まだあの人が亡くなって一週間しか経ってないのに。」
「そうですね。」
「でも‥一緒にいて欲しいの。」
生活して行く上での不安が無くなった今,ここを出て行く理由も無くなったのです。
ソファーを立ち奥さんがお茶の用意をしてくれているのをぼんやりと考えていたのでした。
流れに逆らっては何事もうまくいかない‥
全てを受け止めるのだよ。
そうすれば大概の事は上手く運ぶものだ‥
いつか話してくれた氏の言葉を思い出したのでした。
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