初七日が過ぎた頃,氏の顧問弁護士と名乗る人が訪れてきました。
「失礼ですが,○村圭一様ですか?」
「はい。」
「何かご身分を証明できる物をお持ちでしたら,拝見させてください。」
唯一の身分証明書と言える運転免許証を見せると,
「結構です。ありがとうございます。奥さまには以前お目に掛かっていますね。このお宅で牧方さまと三人でお住まいだったのですか?」
「はい。私は居候させていただいておりました。」
「さようですか。」
そう言いながらお茶を一口啜り話しを切り出したのでした。
「牧方さまから,半年ほど前に財産分与の事で相談を受けました。病に伏せる前のまだしっかりとしていた時期の事です。」
その時の自分は,ただ奥さんの牧方氏を誰よりも大切に想っていた気持ちに報いれるだけの物が遺されていれば良いと思っていました。
「もう2年ほど前から牧方さまは病を患っていた様でした。そしていよいよと言う時になって遺された方々がご自身の亡き後無用な諍いを起こさない様にするためにはどうすれば良いのかと悩んでいらっしゃった様でした。私はこう助言をさせていただきました。全ては牧方さまのお望みのままにされてはいかがかと。そして正式な遺言書とし,文書として遺されるのが一番の方法だとお伝え致しました。」
私も夫人も弁護士の一語一句を聞き逃さない様に黙って聞いていました。
「牧方さまは,奥様の事もあなたの事も大変気に掛けていましたよ。お二人の息子様達よりもずっと。」
「前置きが長くなってしまい申し訳ありません。最後に一つだけ‥牧方さまからは財産分与の他にもう一つご相談をお受けしました。それは,圭一様あなたの事です。」
「私の?」
「圭一様の事を牧方さまは可愛がられていた様ですね。相談と言うのは‥牧方さまの言葉をそのままお伝え致します。圭一には四国にご両親が健在でいるのは百も承知で,私も父親の様になれないものだろうか?
とのご相談でした。
どこまでを言われてるのでしょうか?
とお聞きすると
やはりご自身でもわからない様でした。
ただ牧方さまが亡き後も奥様同様お困りにならない様,考えて下さった様です。ではこちらをご覧ください。この書類は正式な遺言書として私がお預かりになり,お亡くなりになる数日前にもご意志の確認をしたものです。」
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