次の日に身支度をして,また札幌へと向かった。
見舞いに病院を訪れると一昨日,顔を見たばかりなのに奥さんの事を僕の事を喜んでくれた。
最後の列車に間に合う時間に合わせて氏が帰る様に言った。
「たまには僕も札幌に‥」
「圭一,家を守ってくれ。」
なぜか病の床に伏せていても家の事を心配するのだった。
「また来ますから。」
「気をつけて帰るんだよ。」
その時交わした言葉が氏との最期でした。
家に着き,暖炉に火を灯そうとした時に電話が鳴りました。
「圭一‥」
夫人の泣く声で全てを察したのでした。
「明日,行きますから。しっかりしてくださいね。」
それからの一週間は瞬く間に過ぎたのでした。
集落の人達と葬儀に出た時は一番見近にいたはずなのに多くの人達の慰問客の中の一人となってしまい,複雑な想いとなったのでした。
自分でさえそう感じたのだから夫人は尚更だった事でしょう。
「圭一‥」
「はい。」
「これからどうするの?」
札幌のホテルで葬儀の後,夫人と二人でいました。
「何か探そうと思います。」
「何かって?」
「仕事を。」
「出て行くの?」
「はい。それしか‥」
「いて。一人にしないで。」
「でも。」
何の収入もない私達が自給自足に近い生活と言ってもいつか尽きてしまうのは解りきっている事でした。
「私が圭一の事を‥」
「でも‥」
「そうして。」
あの家を出ても住む所と仕事から探さなくてはいけない自分には‥
すぐに出て行く事はできないのも事実でした。
「少し‥あてができるまでまで置いてください。」
「だから‥一緒に‥お願い。」
そして,あの広い,氏の思い出に包まれた家に夫人一人を残して出て行く事もできない気もしました。
「奥さん‥」
「圭一はあの人と約束してくれたんでしょう。私の事を守ってくれるって‥」
「奥さん‥」
大切な人を亡くして悲しみの中にいる夫人を追い討ちをかける様に一人にする事もできませんでした。
「帰ろう‥」
「奥さん‥」
「私達で‥分骨してもらって‥庭にあの人の小さなお墓を立ててあげようと思うの。帰りたがっていたわ。ずっと‥」
「奥さん‥」
声を殺して泣く夫人の肩を抱いてあげたのでした。
※元投稿はこちら >>