トイレに出入りする人の顔がよく見える位置に座る。好みの子がトイレに入ったら耳を澄まし、ベリベリ剥がす音や汚物箱のフタを閉める音を聞く。女子がトイレから出たらすかさずトイレに入り、ホカホカのブツを頂く。
動きが怪しいのは自覚してた。トイレに立つ回数が多いし、しかも必ず女子のあと。立て続けに入ることもある。
ある日バイト女子の佐伯さんがトイレに入るとき、俺をチラ見して行った。そのバイト女子が入ったトイレからは、水が流れる音しかしなかったんで、俺は後追いしなかった。佐伯さんともう一人のバイトの川越さんが、ヒソヒソ話しながら俺を見ていたのはわかった。
まもなく川越さんが、やはり俺をチラ見してトイレに入った。俺は完全に怪しまれてると悟った。トイレからはペーパーをカラカラ巻き取る音と、汚物箱を閉める音は聞こえたが、肝心のベリベリ剥がす音が聞こえなかった。
ダミー?トラップ?行くべきではない?と判断し、俺は店を出た。会計のときの睨むような佐伯さんの顔、俺はこの店はもう終わりにしようと思った。
しかし、日に日にあの顔、臭いが忘れられなくなった。いまは怪しんでる段階だが、疑いが確信に変わったとき、どんな顔で俺を見るのか、どんな言葉を俺に投げかけるのか。俺は試してみたくなった。
久しぶりに店に行くと、もう来ないと思っていたのか、佐伯さんが少し驚いた顔で俺を見た。俺がいつもの席に着くと、カウンター内に向かって、ちょうど店内の曲の合間と重なったため「きたよ、あいつ」と微かに聞こえ、川越さんがカウンターから顔を出し、俺と目が合った。
注文は木田さんという大人しめのバイトの子が聞きに来たが、木田さんまで俺を蔑むような表情をしていた。バイト仲間に広まってると確信した。普通は諦めて帰るのが正しいのかもしれないが、かわいい女子たちに蔑みで見られることに、少し快感も覚えていた。バレるのも悪くないか。
客がトイレに入るたびに、佐伯さんか川越さんが俺の隣の空きテーブルを拭きにきて、あからさまに俺を見ていた。俺は彼女たちの視線がだんだん気持ちよくなってきていた。
そしてとうとう。3人目の客のとき、トイレから一連の音がしてきた。俺の隣の空きテーブルを拭いていた佐伯さんが、カウンターの方に目配せしたのが、俺の視界の隅に入った。
つづく
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