スマホを向けたその瞬間、おばさんは「あ、そうだ」と独り言を漏らし、ゆっくりと立ち上がった。
結局、画面に映ったのはピンボケした黒土と、おばさんの長靴の踵部分だけだった。おばさんはそのまま腰に手を当てて「最近、血圧が高くてねぇ」と、健康診断の結果がいかに平均値であったかという話を延々と始めた。
その後、俺たちは特に目を合わせることもなく、黙々と白菜の収穫を続けた。おばさんのスパッツの食い込みは、動いているうちに生地が馴染んだのか、あるいは俺の視力が疲れたのか、ただの厚手の布の塊にしか見えなくなっていった。そこにあるのは、官能的な何かではなく、単なる「加齢に伴う体型の変化と、それに対応しきれていない衣類」という冷徹な事実だけだった。
母親が戻ってくると、三人は無言で軽トラの荷台に白菜を積み込んだ。おばさんは「この白菜、外葉が少し硬そうね」と、どうでもいい批評を口にし、俺は「そうですね」とだけ答えた。
作業が終わると、おばさんは母親からお礼に渡された湿布の余りを受け取り、「助かるわぁ」と言いながら軽トラの助手席に乗り込んで去っていった。
俺は一人、畑に残された。
スマホのアルバムを確認したが、先ほどのピンボケ写真は容量の無駄だと思い、すぐに削除した。その後、俺は日が暮れるまでひたすら土を耕し、夕飯に特に味のしない湯豆腐を食べて、21時には布団に入った。
翌朝、目が覚めても、その日の出来事は一文字も思い出せなかった。
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