「昨晩は楽しんで来ましたか?」
翌朝 顔を合わせるなり、保奈美さんの方から声を掛けて来ました。
「いやいや、僕は付き合いで行っただけですよ。」
「ふふふ… 本当かしら。」
出張展示会はコロナ禍明けもあり、大変盛況でした。
多くのお客様がご来場いただきましたが、中には変な客もいます。
スタッフにずっと絡む(話したいだけの)おじさんや、女性スタッフの写真を撮ろうとする輩。
販売ブースにいた保奈美さんは、お爺に長時間捕まっていました。
「気になることやご質問は私がお受けしますよ。」
気付いた私は、お爺との会話に割って入ります。
適当に相槌を打ったり話を合わせていると、お爺は去っていきました。
「ありがとうございます、Dさん。助かりました。」
「買う気のない、自分の知識をひけらかしたいだけのお爺でしたね。」
忙しい中でも、彼女の様子を時々伺っていました。
気のせいか、その日は保奈美さんとよく目が合う気がしました。
展示会1日目が終了し、その日も皆で食事会です。
この時は保奈美さんとは少し離れた席で食事を取りました。
顔見せ程度でしたが、取引先のお偉いさんが労いに来てくれましたので、そのご機嫌取りです。
食事会が終わると、また2軒目組とビジネスホテルへ戻る組とに分かれます。
もちろん私は2軒目に誘われましたが、今日は疲れてるからと断りを入れ、ビジネスホテルへ戻ることに。
帰り道、私は保奈美さんの隣を歩きます。
「今日は行かないんですか?」
「はい、ちょっと疲れてるんで。今日はゆっくりします。」
「食事の時もお仕事みたいで、気が休まりませんね。大変そう…」
「おかげで保奈美さん(もちろん苗字で呼んでます)とお話できませんでしたよ。」
「もぅ、上手ですね。」
「いや、ホントですよ。……よかったらこの後、飲み直しません?」
「えっ、からかわないでくださいよ。こんなおばさん誘っても楽しくないでしょ?」
「いや、本気です。もっと保奈美さんとお話したいです。」
同僚達には聞こえないように、少し離れて歩きながら彼女を口説いて(口説きと言っていいのか?)いました。
「ちょっとコンビニ寄って帰りま〜す!」
後ろから前を歩く同僚達に声を掛けます。
「じゃあ、お酒とスイーツ買っときます。何がいいですか?僕の部屋は○○○です。あ、LINE交換します?」
矢継ぎ早に言葉を投げ掛けます。
「えっ、え〜? 本当に?」
「適当に買っときますね。」
私は彼女を残しコンビニでお酒、つまみになりそうなもの、スイーツ等を買い物カゴに入れました。
彼女は遅れてコンビニに入店してきました。
「たくさん買ったんですね…」
「ひとりじゃ食べきれないんで、お願いします。」
そしてふたりでホテルまで歩きます。
それまでとは違い、会話はありませんでした。
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