翌日の夜
俺は大学から戻り、部屋で寛いでいた
ーーーガチャッ
行き成り玄関のドアが開く。
どたどたどた、ガララララッ。
入って来たのは、隼人だった。
隼人「貴様、姦ったのか!!?!!?!?」
俺 「・・・・・・・・・・・・・・・・」
思考が停止する
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
俺 「・・・・・・・・・・・・落ち着け、隼人」
心拍を。
胸奥で大きく脈動する心拍をーーー気取られぬように。
隼人「落ち着いてなどいられるか!!あ、アイス買って来たぞ。60億ルピア」
俺 「円で言え、円で」
隼人「さぁどういうことだ!!!」
ごくりと。
唾が喉につっかかりながら滑り落ちていく。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
俺 「お前が何を言ってるのか、さっぱりわからない」
隼人「しらばっくれるのか、お前って昔っからいつもそう!!」
俺 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
隼人「いやバカな、ミキちゃんは完全に脈なしだったはず。まさか解散後に痴女おねーさんとLINEでも!?」
俺 「だから、何?」
バレてなかった。ーーーおばちゃんとの関係はバレてなかった。
隼人「よかろう、俺の観察眼を思い知らせてやろう。まず、玄関!!」
俺 「玄関が?」
隼人「お前の靴やクロックスがあんなに綺麗に揃えられてるの見た事がない!!つまり女が来た証拠!!」
俺 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれは昨日、お前んとこのおばちゃんがやってたんだよ」
隼人「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
俺 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
隼人「オカン、来たの?」
俺 「俺が苦手な野菜がどっさり入ったカレーを鍋いっぱい持ってきたぞ。少し消費してくれ」
隼人「家でも嫌になるほど食わされているのだ。お断りします。OKOTOWARI-SHIMASU」
変なアクションポーズとともの、そんなことを言う。
俺 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
隼人「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
俺「そ、それだけ?」
隼人「う~ん、どうやら早とちりだったようだ」
内心の安堵の溜め息をーーー気取られぬように。
俺 「野菜畑継げよ、おもちゃ屋継がないなら」
隼人「ミキちゃんにメールした?」
俺 「・・・・・・・してないし、LINEもしてないし、ミキちゃんも来てない」
隼人「それじゃ~昨日1日何をやっていた!!」
昨日?
おばちゃんとの『雄』と『雌』の濃厚な交尾--------が思い出される。
しかし、
俺 「あの子は、ムリムリ」
隼人「俺もそう思う。あの子はお前のようなセミ非童貞の手に負える女ではない」
俺 「だから行きたくないって言ったんだ」
隼人「おっとと、アイスが溶ける、解ける。テレビつけるぞ」
自分の部屋のように寛ぐ体勢で、隼人はベッドに寝転がる。
俺 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
その。
ーーーその、ベッドはーーー。
再び、おばちゃんとのエッチが思いだされる。
隼人「・・・・・・おっ?」
ぎくり。と胃が縮小するような感覚。
俺 「な、何?なんだよ、何?」
隼人「布団からお日様の匂いがするぞ。珍しく干したか?」
俺 「あ、ああ、まあ」
それも、おばちゃんが昨日ーーーー干してった。あの禁断の行為のあと・・・・・
隼人「汗や脂肪、洗剤成分などが太陽光と熱で分解されてできるアルデヒドやアルコール、脂肪酸などの揮発性物質がお日様の匂いの正体なのであーる」
俺 「何その、コピペみたいな解説」
隼人「さーてマユちゃんとLINEでもしようかな、俺はお前と違ってマメだからな!!」
と言いながらベッドに転がりながら、右手でスマホ、左手でアイスというズボラぶり。
ベッドにアイスの溶け汁を一滴でも滴らせたら絞め殺してやる。
ーーーなどと思いながら。
こんなにも。
こんなにもーーー隼人と普通に会話できることに。
寒々しいものを感じずにはいられなかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・隼人。
昨日。
昨日ーーーここには。
物心もあやふやな頃から知っている、男。
そいつを。
そいつをーーー欺いている。
昔から。
それこそ6つか7つの頃からーーー何かと良くしてくれた、『おもちゃ屋』のおっちゃん。
その人のーーー妻を。
伴侶を。
一生の愛を誓い合ったはずのーーー女性を。
自己嫌悪とか。
罪悪感とか。
意外な事に。
そんなものはーーーほとんど湧いて来ないのだ。
勿論。
昨日のことを。
あのーーー動物的で下半身的な、夢のようなセックスを。
『彼女』の家族にバレればーーーただで済まないことはわかっている。
おそらくは。
この部屋はーーー二度と、元3年A組連中の堪り場として使われる事はなくなり。
俺は・・・・・・二度と、あの店の前を通る事はできなくなるのだろう。
ただ。
本当のところは。
本当に『それ』がバレたとしたら。
その子や夫が、一体どういう行動にでるのか。
ーーーまるで想像できないでいた。
殴られるのか?
何らかの責任を取らされるのか?
弁護士を主人公にしたドラマで見たようにーーーー何百万円もの慰謝料を払うことになるのか?
現実感がまったくない。
今まで。
あの家族との関係で。
そんなことを仮定する必要など、微塵もなかったのだから。
(「はあ、あああッ!!なる、なるうッ!!ああッおばさん、ひっ、ひー坊のオンナにッ、ああッなるッ、なるぅぅ~~~ッッ!!」)
疼く。
股間の雄性とともにーーー心の奥底で。
その感情が。
性欲とは違うものが。
その正体に。
その感情の正体に。
脳内の辞書から、近しい言葉を選ばなければならないのならば。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・優越感。
卑劣な。
卑屈で卑劣なーーー卑しいとしか言いようのない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
『お前の母親は、俺と寝たぞ』。
『お前の母親は、俺のチンポに突かれながら、俺の女になると言ったぞ』。
そう。
そんなことを、口にしたことを考えるたびに。
『おたくのカミさん、歳のわりにはいい味だったぜ』。
などと。
そんな。
いまどきVシネでも使われるとは思えないーーー低俗なセリフを。
口の中で捏ねるたびに。
全身を。
全身をーーー薄く、ピリピリした細かな痺れが走っていく。
これは、快感なのか。
あのとき。
あのときーーー突きあがる衝動に従って、女を抱いた俺は。
友達の母親をーーー押し倒し。
歳が倍以上も離れた熟母を犯す---その快感に酔い痴れた、俺は。
そんな卑しい愉悦などーーー求めてはいなかったはずなのに。
隼人「「あ”--------------!!!」
びぐんッと胃袋を握り潰されたほどの驚き。
隼人「あーーーーもういいもういい、やめやめ!!マユちゃんやーーーめた!!」
隼人が見せるお手上げのポーズ。
俺 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
隼人「一緒に消そう」
俺 「はっ?」
隼人「興味ないんだろ、いらないじゃん」
俺 「なんで?」
隼人「いつも一緒だったじゃない!!伝説の大盛丼も起きて破りの半分っこしたし」
俺 「女が絡めば友情は後回し、と言ったのはお前だったな」
隼人「あのな兄弟、冗談を本気にするな。JODANを本気にするな」
今更。
『今更、冗談などと言われても困る』
そう口にしたい衝動とーーー戦いながら。
そう。
もはや。
きっと。
絶対にーーー取り返しはつかないのだから。
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