川北さんの事が少しだけ分かったので、彼女と距離を取ったのか?と言われれば、それは逆でした。ますます会いに行く機会が増えたのです。
回数を重ねる度に、二人でいるのが段々と当たり前になっていきました。特になにかをする訳でもなく、二人で時間を過ごすだけですが。
『ゆうあちゃん、彼女は?』と聞かれた事がありました。『いるよ。』ととっさに嘘をつきます。彼女は、とても嬉しそうに架空の彼女について聞いて来ます。
その日から、彼女のくれるメールの頭に『今、大丈夫?』と言葉がつくようになります。『今、彼女と一瞬では?』と気を使ってくれ始めたのです。
ある日。今日も彼女の家で過ごした僕は、そろそろ帰ろうと立ち上がります。その時、『川北さん、誕生日いつ?』と聞いてみました。
すると、もうすぐなのが分かりました。『どうしたの~?』と彼女が追求して来ます。
僕の中では、ただの会話のつもりでした。プレゼントをあげるとかじゃなく、会話の流れの中で聞いたことでした。
『なんでもない、なんでもない。気にせんとって。』と答えたのですが、深読みした彼女は『言ってよ~!なによぉ~!』と甘えるように聞いて来ます。
答えに困った僕は『また今度言う。また今度ね。』と言い、玄関に向かおうとします。ところが、腕を掴まれ、『言いなさいよぉ~!』と詰め寄られました。
『気になるやろ~。なんなのよぉ~。』、その甘えたように執拗に聞いて来る彼女に、少し恐さを覚えてしまいました。
あのメールを読んだせいかも知れませんが、『この人、男の扱い方をよく知っている。』と、そんな風に感じてしまいました。
そして、またある日。『川北さん、彼氏は?』と聞いてみました。『私?こんなお婆ちゃん、誰が相手にしてくれるのよ~。』と笑いながら言われました。
『10年も20年もいないわよぉ~。』と彼女は嘘をつきました。心の中では『嘘ばっか。榎本健吾がいただろー。』と呟いていまします。
突然、『今は、ゆうあちゃんが彼氏…。』と目を見て真顔で言われ、その場が凍りつきます。男ごころをくすぐるような目でした。
『ああ、でも彼女さんに悪いかぁ~。』とおどけられ、少し緊張がとけます。
しかし、確信しました。誕生日の件と言い、今回の告白と言い、遊ばれてるのかも知れませんが、まんざらでもないみたいです。実際に付き合って来て分かったのは、『彼女はとても若い。』ということです。
普段、才色兼備のしっかり者のイメージが強いのですが、50歳近い差がある僕に甘えてきたりして、仲良く出来るのですから。
この日も、帰ろうと僕は玄関に向かっていました。不意に、彼女が僕の腕に手を掛けました。狭い家なので、よくあることでした。
ところが、この日は必然だったのかも知れません。前を歩く僕の手が、彼女の手を探してしまったのです。
僕が掴まえたのか、彼女が気づいて掴まえやすいように手を持ってきたのかは分かりません。
しっかりと手が繋がったのが合図となりました。彼女を抱き締め、その身体を壁に押し当てて、夢中で唇を重ねました。
きっと、彼女も待ってくれていたんだと実感しました。初めてのキスは、すぐに舌と舌が絡み合う激しいものとなります。
壁に押さえつけられた彼女は、片足を僕の足に絡ませ、両腕は僕の肩に回されます。そして、『もっとして。もっともっと…。』と何度も口にしていました。
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