次の日曜日も、寺尾のおばさんは現れました。『いるー?』と言って、営業もしてない美容院のドアを開くのです。
僕が顔を出すと、勝手にスリッパを履いて、いつもの待合いのソファーへと座ります。
そして、僕が入口のカギやブラインドを締めていても気にはならないようで。このあと、イタズラをされるの分かっているのでしょうか。
寺尾のおばさんがやって来ていたのを知ったのは、僕が亡くなったお祖母のこの家に住み始めて、すぐの日曜日。
カギの掛かった美容院の扉を、何度も引くおばさんがいたのです。それが近所に住む寺尾のおばさんでした。祖母の一番の友達です。70歳前でしょうか。
『おばさん?ちょっと手、見せて』と言ったのが始まり。その手を一度握ると、しばらく離すことはありませんでした。
『手、きれいやねぇ?』と始まったのが、『おばさんきれいやねぇ?』と変わるのです。
寺尾さんは背が低く、少し小太り。目は細く、顔も少し腫れたように突っ張っていて、おかげでシワが少ないのです。
特徴は声。とても可愛らしく、電話ならこんなおばさんだとは思わないでしょう。声だけは、ほんと可愛らしい。
そして、初めて触った腕。手のひらから、僕の手が登って行きました。思ったよりも細くて、少し驚きます。
『ヨウちゃん?おばさん恥ずかしい…。』、あの可愛らしい声で言われました。まさか70歳近くもなって、若い男性に身体を触られるとは思ってなかったでしょう。
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