結局負けた。
民子は支払いを済ませた。
「今日はどこかに泊まるの?」
「うん、駅前のカプセルホテルかな」
民子は財布から一万円を出し、俺に押し付けた。
「タクシー代と、ホテル代に使って?」
「いや、いいってそんな」
民子はポケットにその一万円札を押し込んだ。
「彼ね、○○(某食品メーカー)の社員なのよ。いわゆる一流の給料、だから。もらって?」
そう言えば着てるものも、昔と違うなと思った。
「玉の輿だね」
「私の人生にもツキが回ってきたのかもね」
笑っていた。
俺は民子に質問した。
「もし、民子さん、彼が出来てなくて、一人身だったとして、俺がホテルにでもとお願いしたら、ついてきた?」
民子は即答だった。
「いかない!だって清隆君、結婚するんでしょ?彼女に悪いわよ?でもね」
一呼吸おいて語った。
「私に彼がいない、清隆君も彼女いない、久しぶりに再会して誘われたってなら、多分ついてく」
そして最後の質問、俺は民子の股間を指差した。
「ここは相変わらず…無いの?」
「今はあります!薄くなってたけど、あの後剃るのやめた」
いたずらっぽく笑った。
タクシーを拾った、俺は乗り込んだ。
そのとき。
「もう会いに来ないで!来てももう会わないからそのつもりで!君にも私にも、今の生活があるの、忘れないで」
バタン、ドアが閉められ、車は走った。
そうか、民子は過去を振り返らず生きてきた人だもんな、そう変な納得をして、俺はカプセルホテルに入った。
居酒屋での支払い、タクシーカプセルホテル代と、最後の最後までお節介なおばさんだった。
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