民子はあまり、自分のこと、特に過去を語ろうとはしなかった。
ただ結婚していた時期もあった、子供はいない、おじさんとは仕事絡みで知り合い、民子の部屋に転がりこんできた。
そのおじさん、何があったか知らないが、民子から追い出されたのが大学三年の夏くらい。
俺と民子のことを知ってではないとのこと。
民子は、同居人が邪魔になったから出て行ってもらった、とだけ言った。
おじさんいなくなってからは、部屋の行き来が頻繁になった。
当然、他の住人もいる。
見て見ぬふりだが、あるサラリーマン住人から、俺は一言だけ言われたことがある。
「あんなデブババアのどこがいいの?」
無視した。
同郷なんだから、たまには地元に帰るとかも、民子にはなかった。
俺が実家に帰省して、お土産買ってくと、懐かしいと喜んだ。
親戚とかの話も全くなかった。
友達は何人かいたようだったが、仕事仲間とか、そうゆう感じで、交友も広いとは言えなかった。
民子は俺の部屋で、絶対寝ようとしなかったし、俺が民子の部屋に泊めてもらうこともなかった。
寝相が悪い、だから寝るのは一人がいい、ただそれだけの理由、やってどんだけ遅くなっても、帰ったし帰された。
同じ布団じゃなくても、布団並べて寝ては、それも民子はダメと言った。
近所の噂で民子はムショ上がり、などと聞こえたこともあった。
地元にも帰らず、親兄弟、親戚もいるかいないかわからない、友達も仕事仲間中心、ムショ上がりも外れではないかもと思ったが、本人には聞けなかった。
セックスだけではなく、身の回りのこともしてくれたし、俺がちょっと散財して、金がなかったときは、多少貸してくれたりもした。
きちんと返済はした。
就職、卒業が決まり、地元に帰るとなったとき、民子は喜んでくれた。
卒業して地元に帰り、会社の夏期休み利用して、大学時代の友人と会うのを口実に、住んでたアパートに行ったことがあった。
103号室、民子の部屋だ。
日曜だからいるはず、でもいなかった。
と言うより、玄関横の窓にあった、レースのカーテンがないのに気づいた。
誰も住んでない?
アパートの管理会社に電話、つい数ヶ月前まで住んでいたこともあり、教えてくれた。
民子、引っ越していた。
俺が引っ越してまもなくだったらしい。
民子の職場にいってみた。
民子はそこにはいた。
でも思った。
民子は俺との決別を理由に引っ越したのでは。
だから俺は声をかけずに立ち去った。
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