ヘンなのから目覚めた時の話です。以下過去の空想となります。
今日は月曜日。俺は今週は給食の配膳係だ。
ウチの中学では一週間ごとに配膳係をローテーションしている。配膳係の週が終われ
ば自分が一週間着た給食着を持って帰って洗い、次週の担当となる人に渡す手筈だ。
配膳係は出席番号順に男女交互に担当している。先週の担当は春佳ちゃんだ。
面倒くさい気持ちを抑えつつ、給食着を保管している箱の中から今週該当する番号の
給食着を探した。
ところが、見つかった給食着は保管袋に若干ソースが付いていた。
「うわ、まさか」と思いつつ春佳に聞くと、案の定持って帰って洗い忘れたらしい。
だが給食着には予備がなかった。そのため仕方なく先週春佳が着た給食着を洗わずに
着ることになってしまった。
まぁ、先週の春佳の係は、運搬係に随伴して零れ落ちた汁物などをふき取っていく、
いわゆる雑巾係。肝心の給食着はそんなに汚れないはずだ。
慎重に袋の中身を確認する。通常、袋の中には給食着本体と給食帽が入っている。
だが、俺はそれ以外にもとあるものが入っているのに気付いた。
配膳時に着用していたであろうマスクだ。それは紛れもなく春佳の物。
給食着の番号の時点で既に見当はつくのであるが、特徴は他にもある。
春佳の顔の大きさはお世辞にも小顔とは言えず若干面長な感じ。そのため春佳は大人
用の使い捨てマスクを使用している。
しかしそのままでは流石に大きいのか、耳紐を下側で一回結んだ状態で使用している
のだ。
さらに几帳面な春佳の気質故なのか、ノーズワイヤーをキッチリと折って隙間なく鼻
にフィットさせている。
今回入っていたマスクはその特徴にピタリと一致しており、疑いようがなかった。
俺は年頃で異性に好奇心が湧き始めていたのもあって、女子の使用済みマスクを安全
に手に入れるこのチャンスを逃すはずもなかった。
給食着を着るふりをしながらそっとズボンのポケットにマスクを忍び込ませた。
昂ぶる鼓動を抑えつつ、じっと給食の時間が終わるのを待った。
昼休み、給食の食器を返し終えると、俺は一目散にトイレの個室へと駆け込んだ。
個室の窓を全開にして臭気を抜く。これも素敵な匂いを満喫するためだ。
数分経ち、無臭になったのを確認すると俺はポケットに手を伸ばした。春佳のマスク
は無事に捕獲できたようだ。
しかし改めて思い返すと、ウチの中学は少しヘンだった。
配膳時にマスクと給食着を着用するのは普通の事だろう。だがそれだけでなく、片付
けの際に食器を返却しに行くときもマスクだけは着用しなければならなかったのだ。
そんな意味不明な決まりを中学生は守るはずもなく、半分以上の生徒は返却時マスク
を着けていなかった。
だが春佳は清楚な感じの几帳面で真面目な子だ。夏冬問わず、文句も言わずにマスク
を隙間なく着用して係としての仕事を最後までこなしている。
こういった事情に拍車をかけるように、春佳は配膳係の時も月曜から金曜まで同じマ
スクを使い回しているのだ。
期待を胸に、マスクを取りだして耳に紐をかける。耳紐はきつすぎる位の短さに結ば
れてしまっており、耳の後ろがヒリヒリと痛みだした。
鼻に合わせて曲げられたノーズワイヤーのお陰も相まって、フィット感はかなりのも
のだ。もはや自分の顔の一部といってもいいぐらいに、心地よい着け心地である。
安心感と何とも言えない罪悪感を感じつつ、俺は緊張が緩んで息を吸った。
むせた。
もう前置き文から何となく察せるだろうけど、マスクの中はマジでクサかった。
まだ14歳の少女が放つ濃度の濃い乾いた唾液の香り。そして極めつけは、色んな食
材が口の中で混ざって発酵したような、言い換えれば歯を磨いていない時のおクチの
匂い。
猛烈に後悔し始め、俺は何をやっているんだと我に返った。
真顔でトイレを出て、そこらにあったゴミ箱にあれほど興味があったマスクをクシャ
クシャに丸めて捨ててしまった。
今思えば、これがなかったら俺のヘンな性癖はもっと悪化していたのかもしれない。