昨秋親父が死んだ。
親父の再々婚の相手が子供が苦手だったようで、俺もさほど懐かず、結局母親の方へ引き渡された。
中学校入学間際の突然の転校となり、小学校の友達達に何の挨拶もせずに連れて行かれた。
それ以来あいつとは金輪際会わないと誓ってきたんだが、そろそろ終わりも近いと思われたのか、姉がこちらも数十年ぶりに連絡してきて、会ってやってくれないかという。
仕方なしに会ってやると、あの時はすまなかったとただひたすらに謝る親父、まぁ今更恨み言を言っても仕方ないからと水に流すと、安心したのか4ヶ月ほどであっさり逝った。
それからは当然忙しく、葬儀を済ませ、さまざま手続きをし、雀の涙ほどの査定しかつかなかった団地を売り払うことになり、売った金は1円もいらないからと、姉に渡すことにした。
ただやたら物をため込んでいたので、部屋の片付けにかかることに。
さすがにそれを押し付けるのも何なので、休みにちょこちょこと手伝っていた。
そんなある日、朝まだ暗いうちから出かけ、9時過ぎに片付けで出たゴミを捨てて部屋へ戻ろうとすると、スラッとした同年代の美人とすれ違った。
へぇーいい女がいるんだな。なんて思って歩いていると、パタパタと駆け寄ってくる足音がする。
そして「あのすみません」と声をかけられた。
はい?と振り返るとさっきの美人だった。顔をよく見るとはっとして、相手もやっぱりといった顔でこちらを見ていて、同時に「鈴木でしょ!?」『田中か!』と声に出した。
田中真紀とは保育園というか、この団地が出来た時からなので4歳から小学校卒業までの間のつきあいで、仲が悪いわけじゃないが、何かあればお互いつっかかる喧嘩友達みたいなもんだった。
「お父さん亡くなったんだってね」
『あー奴とは金輪際会わないつもりだったんだけどな、請われて仕方なく会った感じだよ。』
「入学式にいなかったから驚いたよ」
『追い出されてね』
「それにしても何か一言あってよくない?」
『急に車に乗せられて荷物は届ける。だからな、それでも遊ぶ約束してた奴らと遊ぶのに翌日戻ってきたら、たまたま出くわして、さっさと帰れと言われて泣きながら帰ったんだわ、だから奴とは金輪際会わないって決めたし、戻ってもこなかった。』
「そんな事があったのね」
『あ!航空祭にはしょっちゅう来てたわ、あとアウトレットができた時もw』
「でも家には来てないんでしょ?」
『家は出てから初めてだな、こうして同級生に会うのも初めて』
「そうなんだ…」
『でもな、田中の高校の卒業アルバムは実は見たことあるんだよw』
「え!?なんで!?」
『うちの高校の司書の先生が、3年になる時にそっちの高校に移ってさ、世話になったから卒業の挨拶に行ったわけ、そこで卒アルを見せてもらったんだ、たぶん同級生がいるからみたいってお願いしてさ。
そしたら他の先生からわざわざ借りてきてくれてね、てか背高いのになんで集合写真の一番前の真ん中に座ってたんだ?クラス委員?』
「よくそこまで覚えてるね!」
『やっぱりつきあい長かったからかな?ヨッチも変わらないなぁと思った、他にも何人もいたのは覚えてるけど、記憶してるのは2人だけ。親友とお前。』
「なんか聞いてたらアルバム見たくなった!一緒に見ない?」
『俺はいいけど帰省中だろ?旦那は?』
「旦那はいないの」
『そうなんだごめん』
「離婚して出戻りw」
『そうなのか、そりゃあ未婚なわけないわな』
「いい年だもん、そりゃあね」
『年もそうだけどな』
「年も?年以外は?」
『なんだかんだ田中は美人だもん、アルバム見た時もかわいかったし』
「ありがとう、じゃああたしがどんなに可愛かったか確認に行こう!w」
『へーへーお嬢様』