「お兄ちゃん!」
通学中にいつも立ち寄る某コンビニの熟女店員よしかわさん。見た目は40代。初めは無難に天気の話からだんだんと日常会話などをレジで話しかけるようになった。 すっかり顔も覚えてもらい入店した段階で目が合うとニコっと笑って会釈してくれるようになった。
最近、やっとメアドを交換し、メールするようになったんだけど……。
よしかわさんは僕のことをそう呼ぶ。
42歳の専業主婦で高校3年生の男の子を頭に3人の子供の母親。
「アタシ一人っ子だったからお兄ちゃんってすっごく憧れるの。あたしのお兄ちゃんになって癒してほしい……」
こうしてメールを始めた時から僕は彼女のお兄ちゃんになってしまった。
(僕、大学生です)
初デートの日。
「喫茶店に入ってお茶でも飲みますか?」
「あっ、はい、いいですね」
にっこり微笑むよしかわさん。
「この先にケーキの美味しいお店があるんですよ」
「アタシ、甘いものには目がないんです」
「メガネ、よく似合ってるよね」
「すごく乱視がきついの。ありがとう。ほめてもらったのは初めです。」
「ところでお子さん受験やね?お母さんとしても大変やね」
「ううん、がんばるのは本人やし」
ありきたりの会話が続く……。
「お兄ちゃんはこんなオバサンに妹にしてって言われてがっかりやないん?」
「ううん、とんでもない!よしかわさんはカワイイよ!」
「まあ・・口が上手いね!うふっ」
事実、よしかわさんは小柄で細身、色白で目元のすてきなカワイイ女性だ。
「まだ時間いいの?」
時計を覗き込んで尋ねると
「うん、3時頃に末っ子が帰ってくるから2時ごろまでに家に戻れたらいいよ」
話が弾んで喫茶店を出た時にはお昼を過ぎていた。
「今日はわざわざ会ってくださってありがとうございました。」と僕
「こちらこそ楽しかったです。ケーキとコーヒーご馳走になりました」
「また近いうちに」
「はい、またぜひ」
駅の改札口で手を振り合いながらその日の出会いの余韻を味わっていた。