俺が五年に上がる直前くらいに、お隣が急に引っ越すことになった。
おばさんに子供が出来てどっちだかの実家の近くのもっと広い部屋に移るそうで、挨拶に来たおじさんがそんなことを色々話してくれた。
「半分諦めてたんだけどねー」
おじさんは嬉しそうに何度もそう言っていた。
おばさんの方は終始俯いたまま時折チラッと俺や親父を見上げるだけで、ほとんど無言だった。
それ以来おばさんとは会っていない。
懐しさや世話になった礼を言いたい気持ちはあるし、探せば連絡先のメモも見つかるだろうが、さすがに俺も大人になって諸々の事情を知ってしまった今となっては会うのは気まずい。
たぶんもう一生会うことはないと思う。
だが母親のいない俺にとって、おばさんは異性とか母性とか、そういうのを全部ひっくるめた女性というものを教えてくれた初めての人だった。
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