それ以降もおばさんは以前と変わりなく俺の面倒を見てくれた。
子供心に何だか分からないが見てはいけないものを見てしまったと感じていた俺はほっと一安心したが、そうなるとあの時親父とおばさんが何をしていたのか気になって仕方なくなった。
ある日ついに好奇心に負けて、俺はおばさんに聞いてしまった。
「ああ、あれねー」
おばさんはまるで用意していたようにスラスラと答えてくれた。
「あれはねー、お父さんがふざけてプロレスごっこしようって言い出してねー」
「うん」
「夢中で遊んでたら服が脱げちゃってたの。変な格好見せちゃってごめんね」
今考えれば思いっきり子供騙しだが、当時の俺は子供だったからそのまままるっと信じた。そういえばおばさんは親父を下から締め付けたりしてたなー、とか呑気に思ったりもした。
「それでね、一生懸命がんばったけどおばさん負けちゃった」
「ふーん」
「だから、恥ずかしいからおじさんには言わないでね。お願い」
「うん、わかった」
「絶対よ、約束よ」
大人ってプロレスごっこで負けるのがそんなに恥ずかしいんだ、と思いながら俺は約束した。
その後も気を付けて見ると、おばさんと親父がプロレスごっこをしている気配は何度かあった。
ある時はおばさんがワンピースを首まで捲り上げ、素っ裸の体を晒した状態でちゃぶ台に突っ伏していた。
また別の時は裸で扇風機の前に座って涼んでいる親父の足の間に、バスタオル姿のおばさんが土下座するようにうずくまっていた。
親父の背中越しに見たおばさんはせわしなく何度も頭を上下させ、俺にはそれが『ごめんなさい、参りました』と降参して服従している姿に見えた。
その時はさすがにかわいそうに思えて、例によって俺に気付くと慌てて服を着るおばさんに、帰り際、慰めるつもりでこっそり聞いてみた。
「また負けちゃったの?」
「うん、また負けちゃったー」
おばさんはさして悔しくもなさそうに小さく笑い、それから何とも言えない表情で
「お父さん、すごく強いから・・・」
と呟いた。そして最後にまた
「おじさんには言わないでね。絶対よ、約束よ」
と念を押された。
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