今日の午後
サークルのメンバーに客が突然、家に来る事になったんで、先に帰らせてもらうと言って帰って来た。
家は午前中に僕が家を出た時のままだった。
僕は急いで片付け出した。母さんから散らかってるだろうから、ちゃんと片付けて綺麗にしておくように言われたからだ。
そして、遅めの昼を食べていた頃・・・・・玄関の鍵を開ける音が聞こえた。
母さんが帰って来たのだ。
ダイニングで食べている僕を見て母さんは「今、お昼?」と声を潜めて聞いたきた。
その後ろから「やぁ、HIROKIくん、お邪魔するよ」と浅黒く日焼けした男が挨拶しながら入って来た。
K部長だ。50歳ということだが、精悍な風貌からか母さんと同年代に見える。
僕は、「こんにちわ。こちらこそ母が御世話になってます」と言い、妙な威圧感を感じながらお辞儀をした。
「こちらこそ御世話になってます」K部長も言い、「しっかりとした、イイ息子さんじゃないか」と母さんに言った。
僕は、(母さんに下半身のお世話をしてもらってるんだろう?)って思っていた。
「思っていたより大人っぽいな。(母さんの名前)さんの話を聞いて、もっと子供染みた子かと思っていたんだが・・・・・」と僕を鋭い目で見ながら言った。
「そんなことないんですよ。まだまだ子供っぽいところばかりで・・・・」と言いながら母さんはK部長にリビングのソファに腰かけるように勧めた。
僕はK部長の人を値踏みするような鋭い視線に嫌な気分になっていた。
そして、いかにもK部長の大人という雰囲気に妙な緊張感で身がすくんでいた。
僕はK部長と向かいあってソファに座った。
やがて、母さんが飲み物を運んできたのだが、K部長が車で来ているのに、おかしなことにビールだった。
そして、更におかしなことに、母さんがK部長の隣に腰を降ろしたのだ。
(なんで?)心の中でつぶやいた。母さんが座るのは、僕の横だろう。K部長は客なのだから、それが常識的なマナーだ。
K部長は、母さんがグラスに注いだビールを一気に飲み干した。
「今日は、HIROKI君に話があってわざわざ足を運ばせてもらったんだ」
そして、母さんが再びグラスに注いだビールを今度は一口だけ飲んだ。
「僕にですか?」
「ああ・・・・」そう言い、K部長は今度は残りを一気に飲み干した。
「今日、以前から〈母さんの名前)にしていたプロポーズを受けてもらった」
「・・・・・・・えっ?」僕は驚いてK部長の顔を見た。勝ち誇ったような笑みがあった。
母さんを見た。「プ・・・プロポーズって、母さん・・・・この人と結婚するの?」
「そうなの・・・・・・・・急にそういうことになって・・・・・」
母さんは気まずそうに顔を伏せ、肩をすぼませた。
「これはHIROKI君にとっても悪い話じゃないと思うよ」
K部長は、今後の事について話しはじめた。
結婚は3年後、僕の大学卒業を待ってするということ、今、手がけているプロジェクトが3年で軌道にのせる計画で、母さんと協力していくこと。
要するに、僕が就職して自立してお荷物がなくなった頃、プロジェクトを成功させ、それを手柄に母さんを我が物にするって話だ。
「私の願いは一つだけだ」
K部長は僕を真っ直ぐ見ながら言った。
「HIROKI君のお母さんを・・・・〈母さんの名前)さんを幸せにしたい。わかってくれるよね?」
「そ・・そんな・・・・・・そんなこと言われても・・・・・」
僕にとってあり得ない話だった。
「か・母さん・・・・・・」すがるように母さんに目を向けた。「マジなの?マジ結婚するの?」
「それが・・・・・・・・一番良いと思うの・・・・・・」
母さんは目を逸らし、青ざめた唇を震わせながら言った。
「何が良いんだよ?」
「お母さん・・・・・・・HIROくんに少し、親離れして欲しいの。」
「そうだよ、HIROKI君」
K部長が口を挟んだ。
「急に親父面するみたいで申し訳ないが・・・・・早く大人になれ。力をつけろ。」
頭では、母さんの考えも何となく理解できた。しかし、だからと言って、結婚はあまりにも早急ではないだろうか?そう思えた。
僕には、その後の母さんとK部長のやり取りなどまったく耳に入っていなかった。
やがて、出前の寿司が着て、リビングは宴会になった。
でも、僕は青ざめたまま、ただじっとうつむいたばかりいた。
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