お母さんと鈴木さんが、応接間で絡んでいる時間を告げ…
『玄関の鍵開いてたから、帰ってるんだなぁと思ったし、応接間から、声がしたんで、お客さんが居るじゃないかと…それで真っ直ぐ部屋に』
母はしまった…という顔になり、ソワソワしている…更に私は…
『誰か来てたの』
『うん、役所の人…お父さんに線香あげてったのよ。久しぶりに…』
『そう…あっ、ところで…昨日夜帰ってくる時、役所の人見たよ』
『役所の人…だ~れ』
『名前忘れたけど、ほら、親父の悪友で、葬式の時に色々手伝ってた…』『あ…鈴木さんね』
『そう、鈴木さん。あの人、女性と腕組んで、公園のとこのラブホに入って行ったよ』
『えっ、そ、そうなの』『女性の顔は見えなかったけど…後ろ姿は、お母さんと似てた。お尻プリプリしてて、アハハ』
『な、何言ってんのよ、バカねぇ~』
笑ったつもりだろうが、顔がひきつって、笑いにはなってなかった。
『じゃ、お母さん。俺、車取ってくるね』
母はホッとした顔になり、気をつけてと言って、キッチンに…
車を取って戻ると、母は電話をしていて、それでは…と言ってきった。
『礼二…お父さんのお墓に行ってくるけど…どうする、一緒に行く…』
母は私が、親父のお墓には行かない事を知って、わざと聞いている。
私は小さい頃から、お墓が大嫌いであった。
『ん、行かない…ごめん、お母さん一人で行ってよ。送ってくよ』
『大丈夫…途中、役所の人と合流するから…』
『ん、昨日来てた人』
『えっ、まぁ、そう…』
歯切れの悪い返事をして、部屋に戻り、お墓に行くには、全く似合わない服装で出掛けた。
私は母の姿が見えなくなると、車をスタートさせた。T字路で駅の方向を見ると、居ない…
逆方向を…車に乗り込む母の姿を確認した。
何台か後に着けて、後を追うと、ラブホの中に、車は入っていった。
流石にそこまでは、入る気にはならず、自宅に戻った。
自宅から往復45分、ラブホの休憩が、2時間ワンセットである。
スタート時間が、10時頃、そうなれば、午後1時位には、戻るはず…
でも、お墓に行くと行って出たから、ゆっくりはしていないだろう。
お昼過ぎに、車の音が…部屋の窓から覗くと、さっきの車が…
ドアが開き、助手席のシートが倒れている。
シートを戻して、母が降りた。
『ただいまぁ~礼二、いるの』
『あ…部屋に居るよ』
『お昼まだでしょ。食べにいきましょ』
『あ~い、着替えるから待っててよ』
着替えて行くと、玄関先で待っていた。
車に乗り込むと…
『何食べよっかぁ~』
『ん…何でもいいよ。お母さんが食べたい物で』
車で15分位のところにある、レストランへ…
帰る途中、母の首筋にキスマークの様な跡を発見した…
『お母さん、どうしたの、その首の跡』
『えっ、何、なんかついてるの…』
『ほら、見てごらんよ』
ルームミラーを母の方に向けた。
首を伸ばして、近づいた時、ソープの香りが…
浴室にあるやつとは、全く違う。
母は首筋をみて、ハッとした顔になり、動揺を抑えられないみたいだ。
そこにさらに…
『お母さん、ソープの臭い、何時もと違う…替えたんだ』
『ん、あ~、こ、これね…昨日夜ちょっと』
『へ~、じゃ、ソープの臭いは…』
『香水違うのつけたの…今日はお墓に行くから、何時もは、ちょっときついでしょ』
わかりきった嘘を並べて、動揺を隠せない…
『お母さん…ごめん、俺全部知ってるから…』
母は茫然として、窓の外を眺めて、私と顔を合わせようとしない…
『お母さん、親父はもう居ないんだから…自由なんだよ』
母は、両手で顔を被い、泣き出した。
自宅に着いたが、車から降りようとしない…
ドアを開けて、抱えるようにしながら、家の中に入れてあげた。
仏壇の前に座ると、手を合わせて泣きながら…
『あなた…ごめんなさい、私…私…どうして一人で…』
泣き崩れてしまった…
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