何故家に入れないのか、聞いてみたけど、瑞穂はダンマリでした。
会話らしい会話もありませんでした。
私が出したコーヒーをただ飲む、そして時間が10時を回ったあたりに、コーヒーご馳走様でしたとだけ言って、出て行きました。
それから時々、公園にたたずむ瑞穂を見かけては声をかけ、私の部屋で過ごし、帰るのが数回ありました。
春になり、私が大学二年になって間もなくでした。
雨の日、バイトから帰ると、瑞穂が私の部屋の前にいました。
私は黙って部屋を開けると、瑞穂もついてきました。
それまで、会話らしい会話もなかったのに、そのとき瑞穂は、外の雪解けに合わせたように、堅かった瑞穂の口が緩んだように話しました。
まず話したのが、何故家に入れないかです。
薄々は私もわかってました。
お母さんが彼氏を部屋に連れ込んでいることでした。
当然中学生の瑞穂、隣りの自分の部屋で、彼氏と母親の間で、何が行われているか、わかっている、そう思いました。
「お母さん、その彼氏と再婚するのかな?」
「さあ…それはないんじゃないかな?」
「なんで?」
「お母さん、もう40過ぎだし、彼氏はまだ20代だし。しないと思う」
「年の差、関係ないかもよ?」
「彼氏、定職についてないみたいだし、無理だよ」
聞けば、お母さんが彼氏のとこに行くこともよくあるらしく、そのときは泊まってくることもしばしばあるそうでした。
今で言う、セックスフレンドみたいな関係。
「いつも勝行さんに、迷惑かけて申し訳ない、そう思ってる」
瑞穂はそう言って笑っていました。
これでは瑞穂が可哀想だな、そう思いながらも、よそのことに首突っ込むわけにも行かず、彼氏が来てるときは瑞穂を部屋で過ごさせる、それがまた続きました。
大学二年の夏、もうすぐ夏休みに入るってとき、それは突然きました。
ちょっと隣りが騒がしいかな?そう思って間もなく、瑞穂が突然きました。
「お母さんの彼氏が急にやってきて…」
私は瑞穂を部屋に入れました。
「お母さんはなんて?」
「彼氏のお願いに逆らえなかったみたい。情けない」
瑞穂は母親を情けない、そう言いました。
確かに、普通、そうなったら追い出すは彼氏の方、でも追い出されたのは瑞穂の方でした。
「ホテルにでも行きゃいいのに」
つい私が口走りました。
「二人ともそんなお金の余裕、ないよ」
ぺたんと座った瑞穂は、宙を見上げました。
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