「最高の思い出3」
ユイは話すと何を言ってもよく笑う子で、ますます好きになった。大学でもテニスサークルの1年幹事をやっていると言っていた。
ユイと入れる日を増やしたくて、この頃は週5くらい入っていた。
ただやっぱりユイよりフユミの方が気楽に話せた。
ユイが入って1ヶ月くらいしたある日、店に行って準備をしていると、
店長「あっ、りょうくん。話してなかったけど、そろそろシフト、前みたいに戻したいからさぁ…」
りょう「前みたいにってどういうことですか?」
店長「今はさぁ、夜、社員一人とバイト一人か二人で締めてるでしょ。本来はさぁ、締めはバイト二人なんだ。」
りょう「えっ!……」
店長「いや、ここんとこ、バイトの入れ換えが多くて、夜の人みんな新人だったから社員もいっしょだったけど、一応、ユイさんも仕事慣れてきたし…」
りょう「えっ、じゃあ、バイト二人って……」
店長「うん。とりあえず、りょうくんと高木くん、ユイさんの3人いるから大丈夫だと思うんだけど、イケる?」
りょう「…エェッ、アッ、も、もちろんイケます!」
まさかユイと二人きりになれるなんて。
店長「うん、よかった。いやぁ、社員二人だけだから大変だったんだよぉ。本部からも残業代減らせって言われてたからさぁ。んで、入り口の鍵はりょうくんと高木くんに持ってもらうね。夜は必ず一人は男って決まっているから。女の子だけだと、危ないでしょ。」
りょう「そ、そうですね。」
店長「だから、残念だけど、高木くんと入れる日は多分減ると思うわ。」
って、ユイと入れる日が増えるってことだよな?
店長「あっあと、フユミさんがなんか来月から夜入りたいって言うから4人か…」
りょう「えっ、フユミさん通しっすか?」
店長「いや、今10時から18時だけど、夜にシフト変えたいんだって。」
りょう「あ、そうなんですか。」
その日、鍵を渡され、セキュリティのやり方などを教わった。
ユイと、それにフユミとも多く入れると思うと、バイトが一層楽しみになった。
次の日、今日はフユミとかぁなんて思いながら、店に行くと、とても驚いた。
フユミの雰囲気がいつもと変わっていた。
後ろで一つ結びだった髪が、いわゆる前髪がそろったボブになっていた。
服装もラメの入ったオシャレなジーンズにピチッとしたTシャツで、今までわからなかったが実はけっこう巨乳で、エプロンの脇から覗く胸がピタTで強調され形がはっきりわかる。
メイクもしてて、正直、かなりかわいいと思ったが、なんかそれには触れられず、
りょう「なんでシフト夜にしたの?」
フユミ「……朝いろいろ忙しくて…」
りょう「ふーん。…違うバイト始めたの?」
フユミ「……うん、まぁ、そう。」
あんまり納得しなかったが、いつもと様子が違うし、それ以上聞かなかった。すると、
フユミ「…あのさぁ…髪型変えてみたんだけど、……どうかな?」りょう「エッ!……アァ、…いいと思うよ。」
そう聞かれると思ってなかったから、驚いた。
素直にかわいいとは恥ずかしくて言えなかったが、いいと思うっていうのも悪い気がしたし、なんかすごいフユミに喜んでほしいって気持ちになって言い直した。
りょう「うん。……似合っ…てる…と思うけど…。」
フユミ「……ありがとう。」
フユミがちょっと嬉しそうにしたので、こっちも嬉しくなった。
少しレジが混んでから、またすいた。
フユミ「…あのさぁ、……りょうって……彼女いるの?」
りょう「エッ!…いや、いないけど…」
フユミ「前も?」
りょう「…うん。」
かなり不意を突かれて、正直に言ってしまったのだが、言った後すごい恥ずかしくなった。
(絶対、童貞ってばれたよな……)
フユミを見ると笑っていた。その笑顔がかわいくて、どきっとした。
18時。フユミが上がる時間だ。
…………………?
フユミが上がろうとしない。
りょう「時間じゃね?」
フユミ「……うん…」
フユミは1枚のメモを渡してきた。…ちょっと赤くなってる?
フユミ「……メルアド交換しない?」
りょう「エッ!……あっ、いいよ。」
フユミ「後で、メールして。……迷惑じゃない?」
りょう「いや、全然大丈夫。」
人生初の女子のメルアドだった。突然でまた驚いたが、めちゃくちゃ嬉しかった。
さっきの質問といい、雰囲気といい、もしかして俺のこと好きなのか?って思った。が、友達なら普通なのかって思い直し、「んなわけねーよな…」なんて口に出して言ってみた。……でも、やっぱり……
バイトが終わり、フユミにメールしなければならないのだが、なんて送っていいかわからなかった。とりあえず、『お疲れさま』と打ったが、それだけだと寂しいし。
結局、夜中2時ごろになって、『お疲れさま!届いた?』って送った。
届いたってメールで聞くのは変だとわかっていたが、他にいいのが思い浮かばなかった。
それに疑問形なら返信くるだろう。
送信して2、3分、「そろそろかなぁ」
……10分…15分…「フユミもなんて送ろうか迷ってるのかなぁ」
…1時間…
…2時間……返信が来ない。
朝になっても来なかった。
勝手にフユミは自分のことを好きだとばかり思いこんでいたので、けっこうへこんだ。
なんかフユミから告白してきて、セックスできんじゃね!とか、さっきまで思っていたのが、急にそんな甘くない現実を思い知り、やる気がなくなり、その日は学校をさぼった。
夕方に起きた。返信は………ない。
「マジか…夜遅くだったからって思いたかったのに…」
バイトに行った。その日はユイといっしょだった。
ユイ「りょうって彼女いないんだ?」
りょう「エッ!……フユミから聞いた?」
ユイ「うん。意外だね。」
りょう「!!!……意外って、彼女いないのが?」
ユイ「うん。」
(意外って、いてもおかしくはないってことだよな?この俺が?)
一瞬、ただのお世辞か?とも思ったが、お世辞なんかいうメリットもないし。
もしお世辞だとしても、お世辞をいう価値のあるレベルにはいるってことだよな。うん。
ユイがそう言ってくれたことは、すごいうれしかった。
ユイに対して、今まではどっかで本当は嫌われてるんじゃないかなっていう不安というか引け目というかを持っていた。
いわゆる恋ばなみたいなのは、苦手だったがすごく理由が気になった。
りょう「…意外って…なんで?」
ぎこちない聞き方だ。体も震えそう。
ユイ「りょうは、なんか、んー…気が楽っていうか……うん、楽なんだよね。…がつがつしてないっていうか……まぁ癒し系的な!あはは!」
肩をポンと叩いてきて、笑いながら喋るユイ。
ユイが自分に対して好意を持ってくれていたことは嬉しいのだが、内心複雑になった。
ユイの様子からして、自分は完全に彼氏としては眼中にないっていうのが伝わってきた。
それを思い知って、冷や汗なのか、おでこにかーっと汗が吹き出た。
気が動転しているのを悟られないように必死だった。
でも、ユイはそんなことに気付く様子は微塵もなく、相変わらず笑いながら話していた。残酷なほどに……
このときばかりは、早くその場を去りたかった。一刻も早くユイから離れたかった。のどがきゅーと詰まって、嗚咽しそうだった。
帰り。
昨日と今日とで、急にこれからの楽しみが無くなった気がした。
なんかバイトに行くのつらいな…
まだ、辞めようとまではならなかったが、「来月は週2、3に減らそう…」って思いながら、携帯を開くと、メールが来てる!
「もしかして、フユミから!!!」
あんなに祈りながら、ボタンを押したのはこのときだけだ。
見たことないアルファベットの羅列、件名は『お疲れさま!フユミです』
キタッッ!!!
『メールありがとう。遅くなってごめんね。件名かどっかに名前ぐらい書いてよ(笑)』
すごい救われた。フユミがすごくいとしくなった。なんか見たことない絵文字がいっぱい並んでる。(文中では使いませんでした)これが女の子のメールかぁー。
そのあと、何回かメールのやりとりをした。絵文字のせいか、フユミがなんか明るく感じる。
普段が暗いってわけではなく、はしゃぐ感じではない。
俺、フユミのこと好きになってるのかも……
翌月は週6でバイトに入ることにした。店長は、大喜びだった。社員が夜入る日がシフト上ゼロになったから。
月が変わって、とうとう夜、バイト二人で閉めることになった。
社員はバイト二人が休憩取り終わるまでいて、20時ころに帰った。それから、23時に閉店し、締め作業をやって23:15に退勤するっていうのが通常のシフトだ。ちなみに土日祝は22時閉店。
あれ以来、ユイと入るのがちょっと億劫だった。あんなに楽しみだったのに。でも、相変わらず明るくて、オシャレで、可愛かった。
ユイとは、案外会話も弾むしボディタッチとかしてくる。楽しい分、余計に辛くなる。やっぱもてるんだろうな。
夜も二人きりだけど、何一つ変わった様子はない。
意識してるのは、俺だけか……
23時に閉店し、入り口の鍵とカーテンを締め、完全に密室で二人きりだ。
とりあえず、お金も数えおわり、着替えも済ませ(と言っても、エプロン脱ぐだけ)時計は23:10。
ユイ「なんだ。社員いなくても、すぐ終わんじゃん。」
りょう「うっし、さっさと帰ろ。」
ユイ「えっ、……まだ時間あるよ。」
りょう「あと5分でしょ?いいんじゃない?もう今日疲れた。」
意識してるのを、悟られたくなかったからだろう。5分でもいいから、もっと二人でいたいっていうのが本音だったが、それとは真逆のちょっと冷たい態度を取った。
(何やってんだか、俺は。…好きな子いじめる小学生かっ………ダッセーの………)
ユイ「……そうだね。帰っちゃおっか。」
結局、そのまま帰り、ユイとは改札の前で別れた。ユイは地元なので、改札で別れて、そのまま真っ直ぐ歩いて帰るようだ。
(何もあるわけないよな……)
ユイのことが気になって、改札入ってすぐのトイレに入るふりして、振り返ってみた。
!!!!!!
ユイと思いっきし、目が合った!!
とっさに視線を外してしまった。
もう一度見ると、ユイはいなくなっていた。
(……今、目合ったよな?……ユイも俺のこと、気になったってことか?……考えすぎか……)
フユミとメアドを交換して以来、たまにメールのやりとりをしていた。
フユミからメールしてくれることが多かった。
フユミはやっぱ俺のこと好きっぽいな。
ある時、フユミからメールがきた。『ユイがシフトのことで連絡取りたいっていうからりょうのアド教えていい?』
ユイが?…聞いてくれたのはうれしかったのだが、ユイは今月残り全部俺といっしょだから、シフトを代わったりなんてできないし、なんで?って思った。
それに、このちょっと前にフユミからユイは彼氏もちだということを聞いていたから、単純に連絡先を知りたいだけなんだというのがわかっていて、喜ぶ気にならなかった。
『いいよ!』フユミに返した。
なぜか、ユイからメールは来なかった。
この頃、正直フユミとなら付き合えるんじゃないかって思ってた。フユミは居心地がいい。見た目もかわいくなった。
でもやっぱりユイのことが好きな自分がいた。こんな気持ちで、フユミと付き合うのは、フユミがかわいそうだと思った。
…告白……。ユイにしてみようか…。どうせダメだとわかってるし、断られて気持ちの整理をつけようか。
バイト中もずっと考えてた。ただ実際した後、気まずいよな…俺みたいなやつに告白されても困るだろうし…きっと断るのにも気つかわせちゃうだろうし。
ユイ、バイト辞めちゃうかな…今の楽しい時間が終わってしまうのもいやだった。
そんなある日、フユミといっしょになった日のこと。
いつも通り閉店し作業も終えて、二人で話していた。
フユミとは変に意識せず、退勤時間が過ぎても少し話したりしていた。
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