次女の愛舞(イブ)が産まれてひと月、11月の半ば、瑞希も交えた久しぶりの4人での晩飯の後だった。
だが、どことなく空気が重い。
食事も終わり、瑞希と部屋に戻ろうと立ち上がった時だった、兄貴が大事な話があると言った。
「じゃあ、今日は帰るね」
深刻な顔の兄貴を見て、気を使った瑞希が言った。
俺は心の中で舌打ちしていた。
正直、静香との事が瑞希にバレてから、ギクシャクしていて1回しかセックスしてなかった。
それも、途中で瑞希が気分が乗らないと言って、中途半端で終わったセックスだった。
それ以来、してなかった。
今夜は仲直りの意味も込めて、たっぷりと瑞希を抱くつもりだった…………それなのに。
だが、帰ろうとする瑞希を、慌てて兄貴が引き留めた。
「待って、瑞希ちゃんにも大事な話なんだ」
瑞希が席に戻って座る。
長い沈黙が流れる。
俺も静香も、兄貴が離婚を言い出すのではないかと恐れていた。
実は昨夜、静香は兄貴と大喧嘩して、夜中に泣きながら俺の部屋に来ていた。
出産前は判るが、愛舞(イブ)が産まれてからも兄貴は静香を抱こうとしなかった。
何度か、静香の方から誘ってみたのだが、その度疲れてるとはぐらかされ、思いきっていきなりフェラした事もあったが、ピクリともしなくて諦め続けていたのだ。
その度、背を向けて眠る兄貴の横で、自分で慰めていた。
そして昨日、ついに静香の不満が爆発し、なぜ抱いてくれないのか喧嘩になった。
瑞希にバレてから、静香は俺との関係を完全に断っていた。
もちろん、瑞希とのセックスは論外だった。
曖昧な答えで誤魔化す兄貴に静香も苛立ち、極めつけは兄貴の最後の言葉だった。
「そんなにヤリたかったら拓海に抱いてもらえ!あいつの方が若いから溜まってるだろ!」
その言葉に、静香は絶望しながら俺の部屋に来たのだ。
俺達が恐れていた事が、現実になったと思った。
やっぱり、瑞希は兄貴に俺達の不倫関係をバラしていたんだと。
静香は、兄貴が怒って抱いてくれないのだと泣き叫び、絶対に離婚はしたくないと俺の胸で泣き続けた。
朝、目を真っ赤に腫らした静香に、兄貴は“昨日は言い過ぎた”と謝り、この久しぶりの夕食会になったようだ。
沈黙を破ったのは瑞希だった。
「ねぇ、話って何ですか?私も関係あるんでしょ。まさか、静香ちゃんと拓ちゃんの浮気を認めろとか言うんじゃないでしょうね?」
俺も静香も、やっぱりこの話かと、瑞希はやっぱり兄貴にしゃべっていたんだと、もう諦めていた。
だが、予想しない言葉が兄貴から出てきた。
「そ、そうなんだ!なぜその事を………」
兄貴の言葉に驚いたが、一番驚いた顔をしていたのは瑞希だった。
高熱で入院してから、今もずっとダメだと、EDだと告白してくれた。
それが理由で静香とのセックスを避け、不甲斐ない自分に腹が立ち静香に八つ当たりした事を告白して、言ってはいけない言葉を静香に投げつけてしまった事を泣きながら詫びていた。
兄貴の告白の最中、瑞希が俺にメモを渡してきた。
(私、お兄さんにしゃべって無いからね)
そして、耳元で囁いた。
“二人供、気にしてたんでしょ”と。
俺は、思わず瑞希を見つめると、ニヤリと微笑む。
下を向いたまま、黙って兄貴の告白を聞いている静香に、瑞希のメモを差し出す。
それを見た静香が、驚いた顔で瑞希を見つめる。
瑞希が微笑みながら、静香の目を見て頷く。
兄貴は、静香を辱しめる用な言葉を恥ながら、でも勢いで口にした事を、静香が部屋を飛び出した後ずっと考えていたらしい。
静香の欲求不満を解消する為には…………と。
自分の不能がいつ治るか解らない。
その間に、知らない男と浮気でもされたらと考えたら、静香が他の男に走ってしまったらと思ったら恐くなったらしい。
そして、つい口にしてしまった、俺に抱いてもらえと言った言葉が頭から離れなくなったらしい。
「頼む、瑞希ちゃん、拓海を貸してくれ。拓海、静香を抱いてやってくれ、頼む!」
静香にとっては、願ってもない申し出だが、それを、俺と静香はすんなりと受け入れる事は出来なかった。
「ごめんなさいアナタ、アナタがそんなに悩んでたなんて…………、大丈夫、そんなにまでしなくても我慢できるから」
「静香、いいんだ。お前、俺が拒否した後いつも自分で慰めてたじゃないか。それにオモチャだっていつの間にか………ゴメン、化粧台に隠してあるの見つけちゃったんだ」
俺は何も言えず、静香もそれ以上は黙ってしまった。
「いいですよ」
沈黙を破るように、瑞希が言った。
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