「今日は色々と、ありがとう」
真夜中に、叔父の声が聞こえた。
真っ暗な室内に突然あらわれた気配。
「どうしたの?こんな時間に」
と訊ねても返事はなく、布団の中に入ってきた。
「お兄さん?」
「お父さんだろ?」
「どうしたの?急に!お姉ちゃんは?」
「大丈夫だよ。さっきまでしてたから、今はグッスリと眠ってる」
「病院は?」
「手術は難しいらしい。上手く行っても数ヵ月。コロナ禍で面会も制限されてしまうし、妻には寂しい思いをさせてしまう」
「お父さんは大丈夫なの?」
「大丈夫、って言いたいけど、正直言って不安になった」
「怖い?」
「情けないだろ?」
「そんな事ないよ」
と言って私は寝返りを打って、暗闇の中で叔父にキスをした。
「ありがとう、娘になってくれて」
「………」
「あいつが、あまりにも不安そうだったから、つい養子の話をしてしまった。ごめん、どうしても謝りたくて来たんだ」
「いいよ。もう気にしてないし、お姉ちゃんも元気そうだったから」
「今からする?」
「今夜はやめておくよ」
と言って、私の頬にキスをして、出て行った。
私も半分寝ぼけていた会話。
布団に残ったタバコと加齢臭の残り香を嗅ぎながら眠った。
明け方に目が覚めて、二人と顔を会わせたくなくて、黙って家を出た。
すぐにブラジャーをつけ忘れた事に気づいたけど、取りに戻るのも躊躇った。
部屋で寝直そうと思っていたら、叔母から電話が来た。
「おはよう」
「おはようじゃないわよ!どうして黙って帰ったの?」
「んー、枕が調子悪くて」
「?」
「ごめん、今日は休みだし、こっちで寝たい」
と言ったら、
「そうなの?あなたと朝食を食べようと思って、楽しみにしてたのに」
「ごめん、後で行く。お昼は一緒に食べよう」
「分かった。美味しい物を作っておくから、お腹空かせてきなさい」
と言って、電話を切った。
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