朝の光に目を覚ました愛は、枕元に茶封筒が置いてあるのに
気付いた。中には便箋が一枚と、帯封付きの札束が一つ入っ
ていた。
「愛さん。
こんな悪いお爺さんを邪慳にしないで付き合ってくれて、本
当に感謝している。お世辞じゃなく、愛さんは素晴らしい女
性だと良く判った。そんな素晴らしい女性がこんな老いぼれ
を受け入れてくれたことを、僕は一生忘れない。同封したの
は、僕のへそくりの一部ですので、感謝のしるしに受け取っ
て、何かの時に好きなものを買う足しにしてください。愛さ
んは可愛いから、素敵な着る物や、化粧品に使って、僕を楽
しませてくれればなお嬉しいです。あるいは、いずれ夫婦の
カスガイとして生まれて来る筈の孫のために取り置いておく
など・・・好きにヘソクリとして使ってください。まだこの
数倍はあるから、遠慮は要りませんし、お金の要ることがあ
ったら、僕に相談なさい。そしてまた、イヤでなかったら、
時々付き合ってくれると良いんだが。無論、都合が悪かった
り、気が進まなかったら気軽に断って結構。」
あの謹厳そうな舅が、こんな気弱なラブレターもどきのメモ
を書くなんて、と愛は微笑んで、舅の気持ちを有難く受け取
ることにした。
嫁入りの時に持って来た違い棚の、母に教えて貰わなければ
気付かなかった隠し扉を開けて、その中にお金とメモを入れ
た。朝の支度をして、舅が好む卵焼きを入れた弁当を作る。
朝ご飯に何食わぬ顔をして顔を出した舅に給仕をした後、炊
事場に立って漬物の世話を始めた愛は、舅の眼の前にあるの
にわざわざ声に出して、
「今日は、生卵があった方が良さそうなので、お付けしまし
た。」
と声をかけて、クスリと笑う。
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