元旦の朝は、思ってた以上に寒い朝になった。
「明けましておめでとうございます」
叔母夫婦と挨拶を交わし、叔母はおせち料理を並べ私はリモート年始の支度をし、叔父はテレビで中継していた社会人の駅伝を、一人で実況解説していた(笑)
実家と義妹の実家と、ネットで結んだ3元中継を始めたのは、レースが始まって間もなかった。
「今年の駅伝、スタート遅くない?」
「あれは明日だよ」(笑)
「今日は箱根に行かないの?」
と叔母がボケて、場は和んでいた。
パソコンに向かって新年の挨拶を交わし、無事を確認した。
義父は、病院の仕事を抜けて、私の実家にいる娘と孫の顔を、嬉しそうに見てはしゃいでいた。
「じぃじ、じぃじ」
と呼び掛けられた院長先生は、義母の顔が見きれるぐらいカメラに近づいて、孫の名前を呼んでいた。
叔母夫婦も、その様子を微笑みながら眺めていたけど、子供のいない二人には、複雑な気持ちだったと思う。
義父の病院も、感染者はいないけど、転院した患者で満床。
30分も経たずに接続を切って、義父母は病院に戻った。
叔父も入院待ち、手術待ちをしていて、叔母はいつも不安だと言っていた。
手術が遅れたら、手遅れになるかも知れない。
リモートでは笑顔だった二人は、接続を切ると無表情になった。
幸い、叔父の容態は安定していて元気そうだけど、食後の薬が山積みになってお皿に盛られると、私も胸が締め付けられる思いがした。
「疲れたから、私は休みますね」
と叔母が寝室に戻ると、叔父と二人になった私は、駅伝を最後まで見てから、完食した重箱を一緒に洗っていた。
「お兄さん、養子の話なんだけど」
と切り出すと、
「ごめん、りんちゃんにも心配させて」
「ううん、気にしなくて良いよ」
「養子の話は、妻が勝手に言ってる事なんだ」
「知ってる。でもホントは、弟を養子にしたかったんでしょ?」
「………」
一昨年前、長く続いた不妊治療を断念したのは叔父だった。
「お姉ちゃんは産みたかったんでしょ?」
「うん、でも失敗する度に落胆している顔を見てたら、コッチが辛くなって、」
と言った叔父の眼は潤んで見えた。
「私がお姉ちゃんの代わりになってあげようか?」
「?」
叔父は驚いた顔で私を見た。
「それは?」
「私なりに考えてみた」
片付けを終えて、ドラマをやってたテレビを消した。
「私は、結婚できません。私には好きになった人がいて、その人とは一緒になれないけど、私も子供を産みたいから、叔父さんがそれでも良ければ養子になります」
「どういう事?」
「代理出産です」
「!」
叔父は一瞬、険しい顔をしたが、しばらく考えた後、
「妻に相談しないと、何とも言えない」
と言うので
「お姉ちゃんには内緒にして下さい」
と答えた。
「どうして?」
「私がお兄さんの子供を産みたいからです」
「だから、どうして?」
叔父は私の申し出に戸惑っていた。
「お兄さん、私では不満ですか?」「いや、意味が分からないんだ」
という叔父の隣に私は座った。
「秘密を守って貰えるなら、私は貴方の娘になります」
私は人生最大の決断をした。
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