この頃、叔母夫婦が不妊治療を諦めて、「弟を養子に欲しい」と言い出した。
当然、私は猛反対したし、両親も反対していたが、叔母夫婦の強い懇願に、弟自身の気持ちが傾いた。
最後は私一人が家族から孤立して、話は進んで行った。
弟が会社を辞める前提で、叔母夫婦の家業を継ぐ準備と、私が婿養子を貰う話も進んでいた。
(もう私一人が頑張っても無駄かも知れない)
と思っていたら、弟が会社の同僚と参加した合コンで、知り合った女の子と隠れて付き合って、彼女を妊娠させてしまった。
相手は大きな病院の院長の一人娘だった事から、彼女の家と感情的な対立が生まれた。
向こうの家は、娘を有望な医者と結婚させて、病院の後取りにしたがっていた。
医者でもない弟に、「娘を妊娠させられた」と言って、弁護士を間に立てて、法廷闘争寸前にまでなった。
そんな時、妊娠していた彼女が突然倒れ、救急車で近くの大学病院に運ばれた。
連絡を受けた私が病院に行くと、彼女は手術をしなければならないほど、危険な状態だと聞かされた。
原因はストレスだった。
もしかしたら、お腹の子供も、彼女も死ぬかも知れないと言われた。
手術室に入る前に、弟と私は病室に呼ばれた。
初対面の彼女は、出血したせいで顔色が悪かったが、笑顔で
「はじめまして、お姉さん」
と言った。
危険な手術を前に、彼女は私の手を握り、
「お姉さん、ワタシこの子を産みたい」
と言った。
万が一の時には、母体の安全を優先すると聞かされていたが、彼女は子供の方を優先して欲しいと私に言った。
中絶を経験している私にとって、彼女の命がけの決意は、重く感じた。
「大丈夫よ、あなたも子供も、絶対に大丈夫だから」
と言って、私は彼女の手を握り返した。
彼女に
「お姉さん、」
と言われ、私の気持ちが決まった。
後から彼女の両親が病院に駆けつけ、娘の姿を見て、弟に
「オマエのせいだ、結婚なんて絶対に許さない」
と怒鳴り付けた。
彼女が手術室に入ってからも、彼女の父親が弟を責めるので、キレた私は、
「こうなったのは、お父さんのせいでしょ?」
と言った。
「結婚に反対したのは、私も同じだけど、彼女は母親になりたい、って言ってました」
「だから、弟を責めるより、手術が成功する事を祈るのが、私達のするべき事でしょ?」
と言ったら、彼女の母親が、興奮していた自分の夫を、なだめてくれた。
待合室で待っている間に、うちの両親も病院に到着して、彼女と子供の無事を祈った。
担当した医師から、手術が成功して、母子が無事だと聞かされた瞬間、全員から安堵の溜め息が漏れた。
私も「妹(義妹)が出来た」事が嬉しかった。
その後、義妹は無事に出産し、姪が産まれた。
赤ん坊のくせに、整った顔立ちをした彼女は、みんなから祝福されていた。
半年後には、盛大なデキ婚式が行われ、私は新婚夫婦の姉になった。
病院の後継ぎは、義妹の従兄に決まり、二人は私の実家を継ぐ事になって、私が養子になる話になった。
だから、私が中絶したのは、我慢じゃなくて、私のワガママだと気づいた。
だから、私から弟に
「ごめん、これで最後にするから」
と言って、弟を姉として抱いた。
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