先日、私が住んでるマンションのオーナーでもある叔母夫婦に、話があると言われた。
実は以前から、養子に入って欲しいと言われていたんだけど、子宝に恵まれなかった叔母夫婦には、世話にもなっていたので、断り難い状況だった。
弟と父は反対しているものの、叔母の姉でもある母は、
「もうすぐアナタも30歳になるんだし、考えてみてくれないか?」
と言って来ていた。
資産家の叔母夫婦は、私が住んでるマンション以外にも不動産があり、いずれは嫁に行く以上は、将来を約束された道を選んだ方が良い、と説得されてきた。
叔父が後援会をしている議員の息子とお見合いしたり、縁談の話を持ってくるようになったけど、私は断る理由を考えるだけで、頭がいっぱいになった。
私は、弟を呼び出して、相談にのって貰おうと思った。
(マンションで弟と差し向かいで話をするのは、何度目だろう?)
と思っていたら、
「お姉ちゃんも、そろそろ結婚の事を考えた方が良いんじゃないか?」
と言われた。
父より信頼していた弟に、裏切られた気持ちになった。
「どうして、そんな事を言うの?」
身体中の血が逆流するような感じで、今にも感情が爆発しそうになった。
思わず泣きそうになって、弟に背を向けてると、
「俺、姉ちゃんにも、幸せになって欲しいんだ」
と言われた。
弟は昔から優しくて、そんな弟だから私は好きになった。
「結婚て、そんなに良いの?」
「私が養子になって、結婚したら、私の名字も変わるし、姉弟のままではいられなくなるんだよ?」
と言うと、
「それでも、俺は姉ちゃんに結婚して、幸せになって欲しい」
と言うので、私はカッとなって、弟の顔を叩いた。
「どうして、みんな、私の気持ちを分かってくれないの?」
「弟のアナタにまで、そんな事を言われたら、」
と感情的に怒鳴っていた。
「ごめん、お姉ちゃん、俺のせいだろ?」
と言って、弟は狼狽する私を抱いた。
(違うよ、これは全部、私のワガママなんだから)
と心の中では叫んでいるのに、口が勝手に、
「嫌だよ、養子に行くのも、結婚するのもイヤ!」「ずっと、アナタのお姉ちゃんでいたい」
「愛してる、愛してるの!」
と胸の中の気持ちが溢れて止まらなくなった。
そんな私を見て、弟は困惑した様子で黙っていた。
人生最大の姉弟喧嘩になった。
「私も、ずいぶん我慢したよ?」
「初体験だって、」
と言って、私の言葉が詰まった。
重苦しい沈黙が続いてから、
「俺が姉ちゃんを妊娠させた事だろ?」
と弟が言った。
私が妊娠に気づいたのは、大学三年の時で、ゼミの合宿中に、悪阻に襲われた時だった。
突然、具合が悪くなり、近くの病院に搬送された私は、医者から
「オメデタですよ」
と告げられた。
一瞬、少しの不安と大きな喜びを感じたが、
「まだ学生さんでしょ?大丈夫?」
と言われ、目の前が真っ暗になった。
学生だった私が出産して、子育てしながら、大学を卒業するのは不可能だし、相手は実の弟。
どう考えても、堕胎を選択するしか無かった。
真っ先に妊娠を報告したのは弟。
避妊していたつもりだったから、最初は驚いていたけど、数日考えてから、
「俺が大学を辞めて働くから、姉ちゃんは心配しなくて良いよ」
と言った。
もちろん問題は、私が姉である事にあった。
「ダメだよ、せっかく努力して大学に入ったんだし、私も就職活動をしないといけないし、出産なんてできないよ」
「お願い、我慢して?」
と私は弟に言った。
せっかく授かった赤ちゃんを諦めるのは、何よりも辛かった。
(だから、あれほど気を付けていたのに)
と自問し、最後は二人で納得して堕ろす事になった。
知り合いに紹介された産婦人科で、初対面の医師に麻酔を打たれ、病院を出たのは夜になっていた。
知り合いにクルマで家に送って貰ったけど、弟と顔を会わせても、言葉が出なくなっていた。
母には、
「生理痛が酷くて、病院に行った」と嘘を吐いたら、意外と騙せた。
しばらくは、お腹が痛くて、学校を休んだりしていたが、体調が戻ると日常が戻り、それ以来、弟とする時は避妊する為に、アナルも使うようになった。
そんな話も過去の事。
私の就職が決まって、叔母のマンションで一人暮らしを始めると、学校帰りに部屋に来たり、弟が就職してからも、弟は部屋に来て、私達は夫婦のような生活を、秘かに楽しんでいた。
つづく
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