「ごめん、迷惑だよね?」
情けない私は、未だに未練を引きずっていた。
弟が最初に彼女を紹介してくれた時も、彼女が妊娠して、結婚する事になった時も、子供が生まれた時も、私は二人を祝福して、姉として応援していたつもりだった。
強がって、S女なんてやって、他のオトコを抱いていても、心から愛せない自分に気づいてしまう。
オトコと別れる度に、心の隙間を埋めるように、弟は私を抱いてくれる。
いつも私を抱き締めてくれるたくましい腕の中も、この日は冷たかった。
「寒かったでしょ?」
「暖まっていって」
姉らしい言葉とは裏腹に、私は弟に(温めて欲しい)と思っていた。
もう10年にもなる関係が、姉弟の不文律を変えた。
「何時までいられる?」
「遅くても11時までには帰らないと」
「だよね、(義妹)ちゃんも心配するよね?」
ずっと一緒にいたいのに、口から出る言葉は、お姉ちゃん口調。
(こんな芝居は辞めたい)
(自分にも嘘はつきたくない)
と思いつつも、弟の幸せを壊す勇気はない。
「うちでお風呂に入っていかない?」
「いや、湯冷めしちゃうし、姉ちゃんの作ったスープを飲んだら帰るよ」
まだ来たばかりなのに、もう帰る話をした。
弟には、帰らなければならない家があって、弟を待ってる家族もいる。
「今度、遊びに言っても良いかな?」
「あぁ、良いよ」
「いつでも来なよ」
と明るく答えた。
(行ける訳がないじゃない)
と思う自分がいた。
妻となった義妹と、二人の間に生まれた子供と、幸せな家庭を見たら、きっと嫉妬して、ヤキモチをやいてしまう。
もし、そんな態度を弟には悟られたら、私は嫌われてしまうだろう。
残酷なほど優しい弟に、私は翻弄されている。
「じゃあ、そろそろ帰るね」
と言って、玄関で身支度を整える弟に、
「帰り道も気を付けてね」
と笑顔で声をかけた後、私は衝動的にキスをした。
「姉ちゃん!」
と言った弟の腕は、私を抱き締めてはくれず、優しく突き放した。
弟が出ていく後ろ姿を見送って、ひとりになった寂しさを、寒くなった夜に噛み締めた。
※元投稿はこちら >>