芦原温泉に行く特急、サンダーバードって言うんですね。
指定席、私達、前から2つ目の号車で、息子はその後でした。
息子、ぶつぶつ言いながら、後の方へ。
夏子が窓側、私が通路側、私達、旅行に行くときはそう決めていました。
「昔を、思い出すわ。」
「夏子が結婚するまで、二人で温泉よく行ったよね。」
「ごめんね、私、勝手なこと。」
「もう、いいわよ、私も一緒に来たんだし、」
「でも、」
「今度からは私に相談してね。」
「ありがとう。」
私、さっきの息子みたいに、夏子の手を握りました。夏子も握り返してくれます。
その時、私、ふと、今晩のことを考えました。
夏子、息子に抱かれるつもりで今日の部屋を。
私、止めたらいいのか、それとも、
ほんとは何事もなく、三人並んで寝たらいいのですが、息子がそれを許してくれる訳ありません。
この前の夏子の姿が、あたまの中に。
もしかして、今日は二人一緒に。
私、そんな、こと考えると、夏子の手を強く握っていました。
「母さん、仲いいね。手握って。母さんたちあれだもんね。」
「ちょっと、冗談でも、そんなこと言わないで、周り人いるのよ。」
「ねえ、お願い、そこ代わってよ、一人で寂しいんだ。だから、ねえ、お願い。」
「だめ、夏子と話あるんだから、早く席に戻りなさい。」
「ちぇ、けち、」
息子、またぶつぶつ言って、戻って行きました。
「あの子、なんだか私達のこと、女同士でって勘違いしてるみたい。」
「勘違い?」
え?夏子、勘違いじゃないの?
「この前ね、私、嬉しかったの、小学生の頃を、思い出したわ。」
あのキスのことです。夏子もあの時を思い出してたんです。
「私も、小学生のとき思い出しちゃって、あんなこと、夏子に。」
「ねえ、今日も、」
「わからないけど、そうなるかも。」
私、無性に夏子にキスしたくなって。
ここでできるはずないのに。
夏子の唇を見つめながら、私、今日の夜を想像して、夏子の手をいっそう強く握りました。
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