しかし、そんなわたしの楽しみも、その翌週に打ち消されることとなります。
学校から帰り、居間でプレステをしていると、夕方の5時過ぎに父が帰ってきました。
そして、スーツのジャケットを母に脱がされながら、わたしに話しかけてきます。
「ダイ、一緒に風呂に入るか」
(えーっ)
ゲームを続け、聞こえないフリをします。
すると今度は母が、
「ダイちゃん、お父さんが何か言ってるよー」と水を向けます。
普段、母はわたしを「ダイくん」と呼びましたが、「ダイちゃん」と言う時は何か真剣な話がある兆候です。
そういう時にきちんと向き合わないと怒り出してしまいます。母が怒ると丸一日はプンプンしていて、その日の夜は決まって一人で寝かされます。
それだけは避けたくて、わたしは「ちゃん」付けされた時は、いつになく素直になるのでした。
「なーに」
聞こえていたくせに、わざと聞き返します。
「先に風呂入ってるからすぐ来なさい」
父はネクタイを外しながらそう言うと、風呂場へ向かいました。
普段は帰りが遅い父が早く帰って来た時は、わたしと一緒に入るのが恒例でしたが、最近はめっきりその機会はなくなりました。
それはわたしが、わざとそのタイミングを外していたからです。眠い、お腹が痛い、ときには珍しく勉強に集中しているなど、父と一緒に入るのを全力で回避していたためでした。
その理由は、ずばり、母と一緒に入りたかったからです。週に一度のめくるめく触診と皮むきを、逃すわけにはいかなかったのです。
しかし今日ばかりは、元気にプレステしているところをバッチリ見られていたわけで、仮病や勉強中は通用しないし、何より母の真剣モードに背中を押されました。
トボトボと風呂に入ると、すでに身体を流し終えた父が湯船に浸かっています。
わたしは鏡の前に座り、身体と髪の毛を洗い終えると、湯船に入り父の隣に腰を落としました。
久しぶりに息子とゆっくり湯船に浸かった父は、学校や友達のこと、冬休みに予定している旅行の話をし出しました。
旅行の目的であった、初スキーの話にわたしはすっかり食い付き、風呂場には父とわたしの笑い声が響いていました。
すると、扉の擦りガラスの向こうに母の姿が浮かび上がりました。
「どーおー?」
わたしがハテ?と思っていると、
「そろそろいーぞー」と父が返しました。
母は服を着たまま扉を開け入ってきます。そしてキョトンとしているわたしに湯船のヘリに座るよう促しました。
(まさか…父さんが?)
一瞬にしてそんな不安が過ぎりましたが、むごくもそれは的中します。
結局この日は、母指導の下、初めて父による触診と皮むきが行われたのでした。
ときおり父が苦笑したり、母がクスリと笑い二人は楽しそうでしたが、わたしは何ひとつとして笑えなかったし、むしろ、売られた、裏切られた…そんな苛立ちに近い感情に包まれていました。
そんなわたしの気持ちを代弁するかのように、ペニスも終始小さいままでした。
夜寝る時、いつもなら布団に入ると、母とくすぐり合ったりジャレてから、手をつなぎ、母の方に身体を向けピッタリくっついて眠りに入ります。
でもこの日は寝る時になっても苛立ちは収まらず、母が布団に入ってくるとクルリと背中を向け眠りました。
すると母は心配そうに、「ダイくん、どうかした?お腹いたいの?」と声をかけてきます。
いつもの優しい母の声が耳を撫で、甘い母の息が鼻先をくすぐりました。
わたしはたまらず「お母さーん!」と今にも振り返り抱きつきたい衝動に駆られながらも、グッと我慢したのでした。
そして電気が消されると、母にバレないよう泣きました。涙がポロポロ枕に流れ落ちていきます。
その音が母に聞こえてしまっていないだろうか…気にしていたのも束の間、深いまどろみの中に引きずり込まれていきました。
<続きます>
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