冬の寒い土曜日の朝。
突然母から、『出掛ける準備して。』と言われました。寒いし、勘弁してくれよーって感じです。
一階には父の姿はなかった。時間はまだ9時前。こんな早くにどこへ行くのか。
その日は母が車を出した。窓の外を眺めながら、行き先は母にお任せ。
よく行くスーパーへの道へは曲がらず、県道を東へ東へと向かっている。
小さな池が見えてきた。そのほとりには大きめのラブホテルがあって、僕はその看板ばかりを眺めていた。
母はハンドルを切った。車は池沿いの道へと入り、ラブホの前を通り過ぎようとする。
抜け道にもなっているからです。しかし、母の目的地はここでした。
家から15分程度のところにある、このラブホテルだったんです。
駐車場へと入り始めると、僕の気持ちも一気に高ぶり始めます。
助手席で子供のように身を乗り出していました。
駐車場はガラガラでした。泊まっていたお客もほとんどがチェックアウトをした後のようです。
『入るよ。』と母に急かされ、僕も慌てて車を降ります。
ホテルの中はとても静か。ラブホと言っても、朝は賑わってはいません。
母は慣れたように部屋を選び、慣れたようにごく普通の顔をして部屋へと向かいます。
部屋のカギが開けられ、ここでも当然のように一人で入って行くのです。
母はテーブルの上にバッグを置くと、『あんた見てると可哀想でおれんわー。』と言って来ます。
それが、今日ここへと来た理由だそうです。部屋に入り、母も少しだけ緊張がほぐれています。
母は、ネックレスやアクセサリーを外し始めてました。僕の視線は気になるようです。
『準備して。』と言い、僕の気持ちをそらそうとします。
ただ、男の僕に準備など必要はなく、母の行動を見ているだけ。
そんな僕に、『ここに何しに来たのよー?考えなくても分かるやろー?』と少し苛立ちを見せた母でした。
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