楽しかった旅行も最終日。集合時間の8時30分、ロビーに降りるとバスが待っていました。
運転手さんや添乗員さん、そして社員家族にも「おはようございますっ!」と声を掛けて乗り込みます。
僕は、母を窓際へと座らせました。最終日くらいは、外の景色を楽しんで欲しかったのです。
母は窓から景色を眺めていました。しかし、僕が期待したほどは楽しんではいないようです。
「最終日だし、いろいろ考えることもあるのだろう。」と勝手に想像をしていました。
しかし、その理由はすぐに分かるのです。
バスは土産物売り場に着きます。ここで買い物をするのですが、事前にあることを聞いていました。
「空港に大きなショッピング街があるので、そちらで買われてもいい。」とのことでした。
おかげでこのお店での皆さんの支出は抑えられ、期待したお店側は儲け損なった感じです。
バスに帰ると、「そっち座って。」と母から言われ、僕はまた窓際へと座ることになります。
先程のこともあり、「外の景色とか、あまり興味ないのかなぁ~?」なんて思っていました。
ところがバスが走り始めると、母が僕の手を握ります。そして、窓の外を指差し始めるのです。
「あれ、なんだろぉー?。。あっち。。」
他愛もない、ただの景色です。僕もそれには、「なんだろねぇー?」と答えています。
ここで気がつくのです。母が見たいのは一人で見る景色ではなく、子供と一緒に見る景色だということを。
何十年もそうやって来た母ですから、息子越しに見る景色こそが、母が望むものだったようです。
空港に着きました。出発までまだかなりの時間があります。
荷物を添乗員さんに預けて、皆さん最後の買い物を楽しむためにショッピング街へと消えて行きます。
僕も、母と一緒にマップを片手に向かいました。そこであることを思い出すのです。
「お父さんとナオちゃんに、なに買うー?」
母にそう言われ、現実に戻されます。あと数時間後には、父と弟が待つ自宅に帰っている自分に。
「終わる。。もう終わる。。」、普段の顔をして母と買い物をしていますが、気持ちはそのことばかり。
家に帰れば、母は母親として主婦として、僕は息子に戻らないといけません。
覚悟はしていたとは言え、それが現実となることを実感し始めるのでした。
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