俺がコンビニで買い物をして帰ってくるとアパートの前に白い軽自動車……新ママの車だった。
スマホをいじっていて下を向いてるので俺に気づかない。窓を軽くノックすると顔を上げて微笑んだ。窓をあけると「こんばんわ」と、
「どうしたんスか」声をかけると買い物かと聞くので近くのコンビニと答えた。
「ね、乗らない?寒いでしょ」と言う。
「部屋に入りますか?」と聞く俺に車で話そうと言うのだった。
セカンドシートに座ると新ママのいつもの香りが車内に充満していて噎せるようだ。
俺が後部座席を振り反ると「レナはお姉ちゃんがみててくれてる」と言う。
「親父は?」親父と妹、レナを三人にするのは危険だと思って聞くと「パパは夕方から出掛けちゃった」と言うのでやや安心。
「俺んとこくるの妹は知ってるの」
するとチラッと俺を見たあと「言ったら叱られちゃうでしょ?」話していないらしかった。
車は閑散とした夜道を走る。意外に運転は上手なようで信号の停止でも女性特有のカックンブレーキをしない。
「運転上手なんだね」誉めると笑顔で「そ~お?」とだけ答えた。
しばらく雑談をしながら走ると車は住宅街から外れて暗い田んぼ道を走る。
「どこに行くの」俺がや)不安になって尋ねると「もうすぐ」と呟くように答えた。
県道から少し逸れた道に入ると一軒の家の手前で車を止めてライトを消した。家の前には古い家に不相応の無駄にデカい外車が停まっている。明らかに親父の車だった。
「親父?」身を乗り出すようにして思わず俺が呟くと「そうね」一言新ママが答えた。
「誰の家?」の質問には親父の患者らしいとか答えない。詳しくは知らないのだと言う。
「前にね?パパのナビで足跡を調べてみたらここだったの……それから頻繁にここに来てるみたい」ハンドルに凭れかかるようにして話す。
家の玄関には明かりが灯っていて古めかしい雨戸は閉まり家の中の様子などを窺うことはできなかった。
「患者さんって……女?」と聞くと新ママが意味深に顔を腕の間に伏せて「おんな……てゆうか……」口を濁す。
「まさか、また子供…か?」不安になって聞くと新ママが頷いた。
「だってさ、家族は……家じゃん」
「あ、出てきた」俺の質問には答えず窓の外を見て言う。
家はマジで古い。同じような平屋の家が数件集まっているのでこれは貸家だろう。
ガラガラと音の出そうな引き戸を開けると逆光でハッキリとはわからなかったが親父に間違いない。
引き戸を閉める前に玄関の中にチラッと白い(たぶん)ワンピを着た女の子が親父に手を振るのが見えた。
辺りは暗く路駐が連なっているので新ママの車には気づいていないらしかった。
2台前に停まっている車に親父が乗り込むと家の入り口の前に車を入れて白いリバースランプが点く。Uターンするようだったので俺たちが伏せて隠れるとそのまま走り去った。
暫く家を眺めながら新ママの話を聞いた。それによると土曜の夜は頻繁にこの家に来ると言うこと。そして住所と表札の名字からどうも親父のクリニックに通っている患者らしいと言うことなどがわかったが家族とか色々な細かいことは新ママにもわからないらしかった。
すると玄関から漏れていた灯りがパッと消えた。
新ママがその玄関を見ながら呟いた。
「さっき見えたあの子がレナの最近のライバルみたいね」
以前に新ママが言っていた言葉を思い出していた。
俺はてっきり「妹」よ事を指してるのだとばかり……
こんなことになってるとは想像もつかなかった。
ただ、この家を見る限り決してお金に裕福な家庭ではなく親父は新ママとレナのように経済的に困窮した患者を食っていることは間違いなさそうだった。
「かえろうか……」新ママが言うとエンジンをかけた。
親父と同じ様にUターンすると暗い夜道を俺のアパートに向かい車を走らせる。
「長いのかな」
「わからないけど……2ヶ月くるいじゃない?」
「ヤバすぎるだろこれ」
「そうね……私たちみたいに身内じゃないからね」
「まあ……身内ってのもそれなりにヤバいけどさ」
「ふふっ、それもそうね」ここでウフフと笑える新ママもかなりヤバい。
昨夜はそんな夜だった。 親父はマジでヤバイ。
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