問題の木曜日がきてしまった。
今日はヘルパーさんを親父がキャンセルした日だ。断った目的がなんなのかはわからないが妹には話していない。変な気を回してまた学校を休むとか言われても困る。医者になれとは言わないがせめて高校位までは進学してもらいたい。
ヘルパーさんとはラインの交換はないがメールのやり取りはできるので親父が今日をキャンセルする理由を聞いているか後で連絡してみようと思っている。親父に俺が直接聞いたところでどうせ本当のことは言わない。
ただ、家に誰も来ないようにしたということは出かけるわけでは無さそうだ。親父は家にいるはずだ。そして誰かを家に招き入れるつもりか……
例のシングルマザーと娘? あの母親とヘルパーさんは顔見知りだと言うからもしかしたらヘルパーさんとすれ違った時にお互いにそれに気づいたのかも知れない。つまり母親のほうがヘルパーさんとは会いたくない関係だということかも知れない。気になる。
いや、何もかもわからない推測は悪い妄想を生む。事実だけを知らなければ。
親父の話をしてみたい。
51になる。つまり俺は親父が25の時にできた子供だ。俺が物心つく頃には離婚して俺の親権は親父が持った。理由は離婚の原因が母親の男関係だったためらしい。経済的なこともあったのかも知れない。
本当にそれだけだろうか。
独立して開業医となるまでは賃貸に住んでいたが開業と同時に今の家を購入している。
クリニックは規模の割りに繁盛していて医療スタッフも多い。あまり詳しくは書けないが設備としてもそれなりに充実している。
表向きは「気さくで気のいい優しい先生」だそうな。
これは犯罪者に共通する周囲の人物像だ。明らかに不審なやつは犯罪者には向かない。テレビで顔伏せのインタビューでよく見るコメント「おとなしくてそんな事をする人にはみえなかった、意外だ」って奴だ。
正に俺の親父だ。
なぜそこまで言う?……それは俺が幼い頃よく家で目撃してきた出来事があるからだ。
その事に親父は繰り返し俺に口止めをしていた。
どこの誰かはわからないが親父は家に女の子を連れてきていた。それを見たのは全くの偶然の出来事だった。
俺はまだ低学年だったと思うがその子は親父のベッドに寝かせられていて全裸の親父がその子の足を持ち上げて股の間に顔を…………興奮した親父の荒い鼻息と猫がミルクを舐めるような音。幼心にも見てはいけない事を見ているのだと感じていた。
その事を俺は子供の無神経さで親父におの女の子に何をしていたのかを後で聞いてしまったのだ。親父は意味不明な説明をしたあとこの事は誰にも言うなと恐ろしい顔で厳しく言ったものだ。毎日のように何度も暫くの間くりかえし口止めをされたのだ。
俺が目撃したのはその一回だがおそらくはそれまでも、その後もあの部屋でイタズラをされた子供は他にもいたに違いない。
もしかすると離婚の本当の事実はそんな親父の性癖にも関係してたのかも、と勘ぐりたくなるような記憶だ。
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