間近で見るといよいよ美人の母親と美少女の二人だった。
家政婦さんは洗濯が終わると帰っていただいたが契約上一日の料金なのでこの後は夕方まで家政婦さんの自由時間だ。「申し訳ない」と俺が言うと笑顔でかえって感謝された。感じのいい方だ。
さて、娘は現在登校していないのだという。伏せた目を動かさない。じっとほぼ遠くの一点を、まるで地の底の世界を眺めているようだ。まばたきも少ない。これは明らかな薬のせいだと思われる。唇も薄く開いたままボンヤリとしている。美少女だけに異様な感じを受ける。妹があれこれと気を遣い話しかけるが、笑顔はない。母親がそんな妹に感謝と謝罪をする姿にこちらのほうの心が痛む。謝ることなど何一つとしてないのだから。この子が悪いわけじゃない。悪いやつらは他にワラワラとこの子の周りに涼しい顔をしている奴等だ。この子はどこまでも「被害者」でしかない。
妹が娘を自分の部屋へ手を引いて連れていき母親はキッチンで料理を作り始めている。
親父は家のガレージで車をいじってる。俺はボンヤリと俺たち兄妹の新たな母親になるであろう女性の水色のエプロン背中を眺めている。
立ち入った話はまだしてはいないが年齢は31だという。娘は今年二桁に入ったばかり。
「ものすごい可愛らしいお嬢さんですよね、素人にしとくのがもったいないくらいですよね」
俺の言葉に一瞬だが母親が目を曇らせたのを俺は見逃さなかった。やはりこの母親は少なくとも親父の何かを知ってる可能性があるのだと感じた。
※元投稿はこちら >>