「え?なに?」
突然の事に、娘は戸惑っていた。
酔っ払った父親を見るのも初めてだったが、凄い形相で覆い被さる男が、自分の父親だとは、信じられなかった。
しかし、妻が亡くなってから、女を抱いて来なかった父親は、前日の事と酔っ払っていた事もあって、見境なくなっていた。
意味不明の言葉を吐きながら、娘を襲う父親は、ズボンを履いたまま、彼女の身体に股間を押し付けたり、上下に腰を振っていた。
娘は身の危険を感じて必死に抵抗し、その酔っ払った男から這いずって逃げた。
自分の部屋に鍵をかけて、警察に通報しようと、スマホを握ったが、指が震えて操作できない。
なんとか落ち着こうとして、深呼吸してから、
(何て言えば良いんだろう?)
と思った。
酔っ払った父親を、逮捕して下さい。って言うの?
父親に襲われたって言うの?
絶望的な自問自答を繰り返して、冷静になった彼女は、一人で息を殺し、父親の酔いが早く醒める事を祈っていた。
扉の向こうでは、何かが割れる音や、壊れる音がして、喚き散らす言葉の中に、母親の名前が聞こえた。
(お父さん、お父さん、早くいつものお父さんに戻って)
しばらくして、静かになったが、娘は恐怖で部屋から出られなかった。
しかし時間が経つと、お腹も空いてトイレにも行きたくなった。
物音に注意しながら扉を開けて周囲を見たら、リビングのソファで寝ている姿が見えたので、急いでトイレに行き、我慢していたオシッコをした。
一気に緊張の解けた娘は、イビキをかいて眠る父親を警戒しながら、酔っ払って荒らされた台所を片付け、冷蔵庫の物で夕食を作り始めた。
いつもの習慣で二人分の食事を作った事に気づいた娘は、涙が込み上げて来た。
娘はリビングの明かりを点け、父親の食事をラップで巻いて、テーブルの上に置くと、自分の分を持って部屋に戻った。
仕事から帰って、父親と楽しく食べる夕飯を、何より楽しみにしていた娘は、一人で食べる寂しさに、涙が止まらなかった。
翌日、娘が目を醒ますと、父親の姿は無く、テーブルの上には、メモ用紙に「すまない」の一言が書き置きとして、残されていた。
娘は父親からのメモを、大切にポケットへ入れた。
不思議と昨日の恐怖心も無くなり、娘は自分の朝食と二人分の弁当を作ると、会社に遅刻の連絡を入れて、父親の職場に弁当を届けた。
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