娘は、そんな母から結婚について話をしていた。
幼い頃から、お姫様のようなウエディングドレスに憧れていた娘だったが、妻の教育により、軽卒な男女交際は、しないように育った。
娘も20代の内に結婚して、若い内に子育てをしたい、という具体的な人生設計もあった。
しかし、同世代の男性との出会いに、覚悟を捧げられる相手は無く、生涯独身でも構わないとさえ考えていた。
自分の理想としていたのは両親みたいな夫婦。
母親の薦める縁談だから、相手に間違いはないと信じたかったが、そんな確証は持てなかった。
幼い頃、
「パパのお嫁さんになる」
と言っていた話は、家族や親族が集まる席で、よく聞かされていた。
物心が付く前の事で、そんな事を言った記憶もないが、娘の心の奥深くには、父親と夫婦になりたい願望が潜んでいた。
娘は、自分と向き合うために、料理や掃除に洗濯まで、花嫁修行に励み始めた。
父親は、そんな娘の成長する様子を、感慨深く眺めていた。
そしてお見合い当日、自分の生涯の伴侶を見定める為に、親戚の女性がお見合いに着て行き、良縁に恵まれたという縁起物の和服を着て、両親と共にお見合いの席についた。
着なれていない和服は動きづらく、気合いの入った母が着付けた帯が苦しかった。
(こんな窮屈な着物は、早く脱ぎたい)
そんな事ばかりを考えて、作法通りにしていたら、会話も上の空になり、相手と交わした会話も覚えていないし、出された料理の味さえ、記憶から消えていた。
親戚に借りていた着物を着替え、しばらくしたら、急にお腹が空いてきた。
帰り道、家族3人でファミレスに立ち寄った。
楽しい家族団欒の後、上機嫌の母親が、
「どうだった?」
「写真より良かったよね?」
と尋ねると、娘は
「どんな人だっけ?」
と、一言で終わった。
呆れる母親と、爆笑している父親の対照的な反応を見て、娘は自分も幸せな家族を作りたいと、固く決意した。
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