「どうしたの?」
「二人とも、何か良い事でもあった?」
最近、ぎくしゃくしていた二人が、談笑している様子を見て、妻も安堵した。
縁談話に端を発した家庭不和。
原因は、自分にあると解ってはいた。
妻は、近所に住む娘の元カレの母親とはママ友で、手のかかる男の子の子育てについては、ずいぶんと愚痴を聞かされていた。
娘の出産は難産だった。
夫婦は男児を望んでいたが、医師から次の出産が、無事に出来るか難しいと言われていた。
それでも息子を出産したい想いが払拭できず、妻は事情を知らない夫と子作りに励んでいた。
娘が多感な時期に入ると、それまで早く寝ていた娘も、夜遅くまで起きていて、部屋からは電話で話している娘の声も漏れていた。
声を殺してするセックスに、スケベな夫は興奮していたが、妻は気持ちも褪めてきて、夜の営みもレスになってきた。
数年後、娘と交際していた彼が、別の女性を妊娠させて、結婚した。
ショックを受けると思った娘は、その話を聞いても、喜ぶばかりだった。
彼氏ではなく、娘とは単なる男友達の関係だったらしい。
いつかは義理の息子になると思っていた妻は、ひどく落胆したが、彼の嫁が出産してからは、頻繁に遊びに行って、生まれたばかりの男の子を可愛がっていた。
(やっぱり男の子も欲しかったな)
そう感じた頃には、もう出産の適齢期は過ぎてしまっていた。
(娘には早く結婚して孫を産んで欲しい)
と願うようになって行った。
しかし、娘からは全く男の気配も感じる事はなく、学校を出て、門限が無くなっても、帰りは夫よりも早かった。
娘の口からは、仕事の話か友達の結婚話を聞かされ、何度も結婚しないのか問い詰めてみたが、娘には、その気が無い様子で、妻は知人にも嘆くようになっていた。
そんな中で縁談の話が舞い込み、妻にも希望が芽生えた。
孫の顔が早く見たいという想いが日に日に募って行った。
しかし妻は、そんな自分が家族から孤立している事に、気づいていなかった。
家の中で、妻の知らないところで、娘は夫と家族の崩壊を招くような計画を、密かに企てていた。
つづく
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