(とうとう、言っちゃった)
娘は部屋に戻ると、自分の爆弾発言に興奮していた。
(パパが、あんな顔するなんて)
初めて見る父親の動揺した顔が、目に焼き付いていた。
(でも、可愛そうだったかな?)
(謝った方が良いかな?)
と罪悪感も過ったが、
(パパもパパよ)
(ママの味方して、無責任な事を言うから、いけないんだわ)
(パパも反省するべきよ)
両親の言う事が正論だと理解していたが、自分がお見合いする事には、不安を覚えていた。
友人が紹介してくれる男子ではなく、大人が責任をもって紹介する結婚相手。
一方的に話を進めたがる母親と、嫌なら断れば良いと、無責任な言葉を言う父親に、反発していた。
(反抗期みたい)
少し大人げなかった自分が可笑しかったが、友人や同僚、元カレまでも結婚している現実に、娘の気持ちは焦っていた。
(お見合いの前に、結婚の相談を両親にしておきたかった)
と、娘の気持ちも揺れていた。
パパは男だから分からないだろうし、ママも遠い昔の事だから、きっと覚えていない不安。
今さら誰にも聞けない事を悩み始めた。
そんな娘の気持ちも知らない母は、お見合いの日取りが決まると、自分がお見合いするかのように、はしゃいでいた。
(そんなに楽しみだったら、パパと離婚して、ママがお見合いすれば良いのに)
と娘は思った。
父親は、あの日以来、あまり目を合わせなくなり、下着をイタズラしている様子もなかった。
母親に怒りを募らせるほど、父親に言ってしまった言葉に、娘も後悔していた。
ある朝、外で母が洗濯物を干している間に、朝刊を読んでいた父親に、娘は思いきって声をかけた。
「パパ、ごめんなさい」
口を突いて謝罪の言葉が出てしまった。
これでは何を謝っているのか解らないと思ったが、父の方から
「オマエの下着を、、、その、すまなかった」
と、返事がかえってきた。
娘は、わだかまりが解けたように、気持ちが楽になった。
「私、怒ってないよ?」
「最初はビックリして、気持ち悪いって思ったけど、男子は女子のパンツが好きなんだよね?」
「パパも男子だから仕方ないんだよね?」
父親は、娘の言葉に顔が熱くなるのを感じていた。
(恥ずかしい)
色んな意味で、父親の心の中に、恥ずかしさが込み上げてきた。
何とか話題を変えようと、
「この前から、おまえ、お父さんの事を[パパ]って呼んでるけど、どうしたんだ?」
と訊いてみた。
娘が幼い頃は、当たり前にパパと呼ばれていたが、妻が
「お父さん、って言いなさい」
と躾てからは、ずっと[お父さん]か[父]と呼ばれていたので違和感があった。
「そうだよね」
「変だよね?」
本人に自覚が無かったらしく、自分の事を笑っている娘の笑顔には、幼かった頃の面影が見えた。
※元投稿はこちら >>