ある日、妻の口から娘の縁談話が出た。
就職してからも、実家から会社に通っていた娘も適齢期。
親戚や近所からも、色々と言われていた妻が、
「あなたの年には、私もアナタを産んで、育てていたのよ?」
と娘にお見合いを迫った。
「誰か好きな人でもいるの?」
「いないんだったら、会うだけ会ってみなさい」
と妻は娘に畳み掛けると、娘は父親に助けを求めるような目でアイコンタクトをしてきた。
妻は黙ったままの夫に
「あなたは、どう思ってるの?」
「この子が、結婚できなくても良いの?」
と強い口調で詰め寄った。
「本人の気持ち次第だし、、、」
歯切れの悪い夫の返事に、妻はキレて席を外した。
父子二人きりになってから、娘が重い口を開いた。
「お父さんは、私が結婚して家を出て行って欲しい?」
娘の真剣な目差しに圧倒された父親は、何とか話題を変えようとしたが、考えがまとまらず、
「お前が良ければ良いんじゃないか?」
「お母さんにも、立場があるし、会って嫌なら、縁談も断って良いんだぞ」
と言った。
娘は落胆した表情で、
「わかった、お父さんの言う通り、私お見合いする」
と言って、自室に戻って行った。
寝室に戻った夫が、その事を妻に告げると、
「あの子、パパの言う事は何でも従うから、あなたから話をするのが一番なのよ」
と言われた。
その日以来、娘は父親を避けるようになった。
妻を交えて話す時は普通に会話をする娘も、二人きりになると、黙って自室に戻るようになった。
父親は娘の変化に戸惑っていた。
そんなある日、妻が外出している時に、娘の方から声をかけてきた。
「お父さん、どうしてお見合いの話を断ってくれなかったの?」
「絶対に反対してくれると思ってたのに」
まるで喧嘩腰の言い方に、父親は圧倒された。
「おまえが幸せだったら、お父さんは構わないが、」
と答えると、
「そんな事を訊いてるんじゃないでしょ?」
「パパが私の事を、どう思っているのかを訊いてるの!!」
語気を強める娘は、瞳を潤ませて、今にも泣きそうな顔で訴えてきた。
何と答えたら良いか、分からなくなって、言葉を失った父親に、
「私、パパが私の下着を盗んでたの、知ってたんだよ?」
と言い出した。
突然の話に驚いて、父親は絶句した。
娘の下着を嗅ぐ癖は昔からあったが、娘に気づかれている事を初めて知って、父親の頭の中は、真っ白になっていた。
「ママには絶対に言わないよ」
と捨て台詞を残して、娘は部屋に戻ってしまった。
平穏だった家庭に、嵐が近づいていた。
つづく
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