「車を買いに行くから週末つきあってね~」
姉からのメールで、姉の住む街へ向かった。車を買うというのが、先週の答えだと考えると気が重かったが、先週の事は無かったようにいつもの姉がいた。
「祐樹に頼りすぎたのに、やっと気づきました。車で自分でどこにでも行くようにしないと」
半袖のワンピース姿の姉は、いつもよりちょっと大人びて見えた。いや、少しよそ行きの化粧と服装のように感じた。
「前から車を買おうと思ってたの。でも車なんか買ったことないから。祐樹に頼らないようにするのに、やっぱり祐樹に一緒についてきてもらわないとダメって、変だよね」
軽自動車でも買うのかと尋ねると、『買いたい車は、決まっている』と車の名前をあげた。姉の決めていた車は、小型ながらRVで女性向きとは言えなかった。
「祐樹が今度買い直すなら、これが良いって言ってたでしょ」
試乗して、商談を始めると、在庫車なら値引きも大きく、来週には納車できると言ってきた。その場で契約を済ませた。ディーラーにいる間、姉は女性社員からも営業の社員からも”奥さま”と呼ばれ続けたが、姉は訂正もしなかった。
少し遅い昼食に、姉のお気に入りのイタ飯屋に行くと、不思議なぐらい姉は饒舌だった。
「テレビを買うから線繫いで、パソコン買い直したから使えるようにして、実家に帰るから迎えに来て・・・祐樹に頼りすぎだよね」
「いいじゃん、俺別にいやじゃないし、今まで通り何でも頼めば」
「でも、もうすぐ31だもん。祐樹依存シンドロームから抜け出さないとね」
姉の誕生日が近いことを思い出した。
「誕生日プレゼント何がいい」
「だからさ、この年で姉と弟で誕生日にプレゼントやったりするの変なんだよ」
「だって、家族だよ」
「この間、他の学校の先生に、祐樹に買ってもらったネックレス誉めてもらったから、つい『弟に買ってもらった』って言ったら、一瞬絶句されたもん」
俺の着ている服は、ほとんど姉の見立てで、姉にプレゼントされたものも多い。友人と服の話になり、その事を話したらドン引きされたことがあり、俺もその話は人に話さないようにしていた。
「でも祐樹以外に誕生日プレゼントくれる人いないんだよね。じゃあ、来週車受け取ったら、どこか一緒に遊び行こう。で、計画は祐樹がしてそのお金も祐樹が出す」
姉の真意はわからなかったが、姉に拒否されていない気がした、ニコニコしている姉が愛しかった。
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