飲みかけのコーヒーを啜りながら、シンクに向かい洗い物をする、おふくろに
「親父を迎えに来た、あの人は誰?」
と聞いてみる、おふくろは背を向けたまま、親父が勤める会社の常務と答えた。
「おふくろ、昨夜は何処に行ってたん?」
その質問にも何の変化もなく、近所の○○さんの所。
と答える。
「昨夜、あいつの家から帰る時に公園の駐車場に、さっきと同じ車が停まってたわ、中に誰か乗ってるみたいだった!あの人じゃなかったんだろうか」
洗い物をする手が一瞬止まり、再び洗い物を始め、偶々、同じ車種じゃなかったの。
と言う。
「普段は停まって無い車だから、ちょっと気になって近づいてみたんだぁ、間違いなくあの車だったわ」
急に忙しなく洗い物の手を早める、おふくろ。
「近づいてみたって!どれくらい」
おふくろは少し狼狽した声で言ってくる。
「中が見えるくらい」
おふくろは更に狼狽えるように
「見たの?」
と言ってくる。
「見えたよ」
「見えたって、何を」
「二人が重なってる所が」
洗った食器を重ねる音が震えてるように聞こえる。
「女の人の顔は、さっきの人の肩に隠れて見えなかったけど何で、あんな場所で、近くにあの人の彼女でも居るのかな」
「そんな事、母さんは知らないわよ」
「そうだよな」
「どこまで見てたの」
「女の人が、あの人のを咥える所まで、でもあの時おふくろの髪型と似てるなぁ!って思ったわ」
「何、馬鹿な事言ってるの母さんの訳が無いじゃない」
おふくろの狼狽振りは相当なものだった。