水銀灯の冷たい光が10月の庭を照らしている。喧噪が去った郊外の自宅は、静
寂と安らぎに包まれていた。夕食の後片付けも終わって、母は風呂上がりの体
をバスローブに包み、庭のテラスに出た。手に持ったドリンクのグラスをテー
ブルに置くと、母は籐椅子に腰掛けた。庭には少し肌寒い風が吹き込んで、落
葉の季節を間近にしたプラタナスの葉陰を揺らしている。空には十六夜の月が
浮かんでいた。母はドリンクを少し口に含むと、物憂い視線を星空に向けて、
溜息を漏らした。
化粧を落とした母の素顔は、庭の水銀灯と月の光を浴びて、蒼白く見える。
その横顔は清楚な気品を漂わせて美しい。しかし、私は知っていた・・まもな
く母の素肌が淫の色に染まる事を・・そして・・私はその時を待った。
やがて母は視線を右に流して、下宿学生の住む離れの窓を見た。その窓には、
まだ遅い時間でもないのに明かりが点いていない。母が一人でテラスに出る
と、いつも明かりは消されてしまうのである。
母は籐椅子に浅く腰掛け、右手を股間に這わせる。母のバスローブが小刻みに
揺れ始める。「ああっ~あああっ~」母の口から粛粛とした声が漏れる。母が
バスローブの紐を緩めて前部の合わせ目を開くと、白い裸身が月の光に浮かび
上がった。形良く盛り上がった乳房・程よく脂が乗った下半身・前方に投げ出
された太腿・・その全てが月光に照らされた。
母は下宿学生に自慰を見せている。そして、母は下宿学生の視線を必要として
いた。母は見られる事で興奮し、粛粛と喜悦の声を漏らし続ける。母は男の身
体を必要としていない。ただ、恐らくは自慰をしているであろう学生の視線だ
けを必要としていたのである。私は・・・そんな母を物陰から覗いていた。
私の位置からは下宿学生の居る窓は斜め方向しか見えない。ただ、自慰に耽る
母の姿態はよく見える。母は行為を続けた。母の口から間断なく喜悦の声が漏
れている。母の身体は自らの指に悦ばされて歓喜している。母は、蕩けるよう
な快楽の表情を浮かべて淫らに微笑んでいた。
母は、悶絶する裸身を離れの学生に見せつけたいのだろうか・?
母はバスローブから両手を抜いて、全裸になる。
四十路の年齢になった母の裸身は崩れていない。乳房には張りがある。腰回り
に脂が付きかけてはいるが、それが成熟した女の質感となって、女体の猥褻さ
を際立たせている。これほど迄に豊かで官能的な肉体を持つ母が何故自慰に耽
るのか、当時の私には理解できなかった。
母は太腿を大きく開いて、右手で性器を捏ね続ける。母は籐椅子に浅く腰掛け
て自慰を続ける。母の白い腹部はうねる様に悶えて、腰は、時折高く持ち上げ
られた。母の顔は快楽に歪んで、正視できない程に淫らである。母の啜り泣き
は徐々に声を高めて、いまやはっきり分かる程の泣き声が聞こえている。時折
母の全身が板のように硬直して、腹の辺りが激しく痙攣する。そして、それで
も尚、母は自慰をやめなかった。母は、何度も何度も痙攣しては泣き崩れたの
である。身を捩り痙攣し全身を硬直させて悶絶する母。私はその迫力に圧倒さ
れた。
母の行為は延々と継続した。そして、母は最後の絶超を終えると、静かに力尽
きた。
月光に照らされた母の顔は美しい。成熟した裸身も美しい。しかし、自慰に耽
る母の姿は悲し過ぎた。自らの指がもたらす快感に悶える母の顔は、月光に照
らされて・・・隠しようもなく孤独であった。