それは、夕方の満員電車の出来事だった。
聞き覚えがある咳払いが聞こえ、そのほうを見ると母がいた。
母は、ドアにもたれかかる様にたっていました。母は目を閉じて、顔やうなじがあからんでる感じでした。
なにか気分が悪い感じでした。母は窓ガラスに顔をおしつける感じで顔が僕の所から見えなくなりました。その時でした。僕と同じような大学生風の男が、母の耳のあたりに顔を近づけて、なにやら囁いていました。母は、頷いていました。
その時でした。母が降りる駅でもないのに乗客をかきわけながら、出口に向かいました。僕も、胸さわぎがしてあわてて後を追いました。改札口を急いで出て母を探すとグレーのスーツ姿の母が商店街に向かってるのを見つけました。なんとその後ろに、あの若い男がいたのです。やがて、若い男がなにやら、母に話かけてるようでした。結局、僕は商店街を抜けたあたりの、雑居ビルたち並ぶあたりで母達を見失ってしまいました。僕は、独りで帰るしかありませんでした。今も、あんな何もないような所に何をしにいったか気になってしかたありません