母は、両手で敷き布団の脇を掴み、くちびるをかみしめ、顔を左右に
振りながら必死でがまんしていました。両ひざは胸まで引き寄せて開き、
両足首は空を蹴るように揺れていました。それは、赤ん坊がイヤイヤを
するようにも見え、またヒナ鳥が大きく口を開けて親鳥からエサをもらう
ように、足をバタバタ開いて医者にオムツを催促しているようにも見えまし
た。
「先生っ、ダメッ。やっ、いやっ。早くっ。で、で、出ますっ。」 母の
肛門は必死に引き絞られていたはずです。
「さあ、これでいいぞ。」 両股の付け根のテープ留めが終わりました。
「先生っ、あっちに。あっちに行ってらしてください。」
当然、医者がその場を離れるわけはなく、母の横に座りました。
「あっ、いやぁ、いやぁ。」 母は両手で顔をおおい、左右にふりました。
医者は黙って、母の様子を見ています。
「あぁぁ、いやぁぁー。み、見ないでください。」
母は、両手で顔をおおったまま、医者に背中を向ける形で、くの字型に
横向きになりました。
ググッ、ググッとくぐもった音が、私の耳にも入ってきました。
「あぁ、いやぁ。聞いちゃいやぁ。」 グズ、グズといった音がしばらく
続いていました。母は肩で息をし、お腹も波打っていました。
「あぁ、いやぁ。こんなに…。」
「そろそろ、いいかな。」 医者が、母の腰に手をかけました。
「あっ、待って。まだ、出ます。」 恥ずかしい、最後の名残が出たよう
です。
医者が、母の身体を仰向けに寝かしました。母は、顔を両手でおおった
ままでしたが、目尻から涙が流れていました。医者が、オムツを留めている
テープをはずそうとしました。
「いやっ。いやです。はずさないで。」
「そうはいかんだろう。研究の資料にするために、ここまで頑張ったんだ
からな。もう少しの辛抱だ。」
そう言って、無情にも医者は、オムツのテープをバリバリとはがしていき
ました。
「あぁぁ、いやぁぁ。そんな…。」